心も体もお疲れの皆様に、全日本スナック連盟会長・玉袋筋太郎さんによるスナック超入門をお届した前回でしたが、今回はいよいよお作法編!
未知の世界への扉を開けたその先は、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界⁉ ――いいえ大丈夫。初心者でもすんなり溶け込んで気持ち良く楽しめる「使いこなし術」も解説していただきました。
達人秘伝のポイントをしっかり押さえて、明日の英気を養いましょう!
玉袋さん。はじめてのスナック「キホンのキ」を教えてください!
前回は、スナックの玄関を外からよ~く観察して、フィーリングが合いそうだと感じたら勇気を出して扉を開けようぜ! ってところまで、話したんだよな。
今回は実践的な“お作法”を伝授するよ。これから話す「キホンのキ」さえ押さえておけば、あとは何とかなるもんだぜ!
スナックの扉を開けて最初の瞬間、どうすりゃいいの?
スナックには、威張って入っていっちゃダメだね。スナック研究家の都築響一さんも言ってるけど、他人様の家にお邪魔するっていう感覚が大事だよ。「こんばんは。はじめまして。お邪魔します」とキッチリ声に出して言うのもなんだけどさ、そういう気持ちでね、扉を開けるのはキホンだよ。
謙虚な気持ちで入ったらさ、それはママにきっと伝わるから。「あら? ここ初めて? どうぞこちらへ」なんて、優しく言ってもらえるよ。
初心者は、最初に何を頼めばいいの?
ママがベロベロに酔っぱらってたり、めちゃくちゃ忙しかったりすると、慌ただしく「なに飲む?」なんて聞かれて戸惑うこともあるけど、初めてスナックに入ったらどうしたらいいかわからないよね。やっぱり金額が気になるしさ。
そんな時は、「初めてなんですけど、セット料金はおいくらですか」とか「3000円くらいの予算だと、何が飲めますか?」とか、正直にママに聞くのがいいと思うよ。まあ、たいていは「どちらからいらしたの?」なんてママから話しかけてくれるから、あまりかまえずに気楽に座ってみてよ。いきなりボトルを入れる必要ないし。
まあ、無難にビールを頼むのがいいかもな。あ、でもね、「とりあえず生」ってのは通用しない場合が多いよ。スナックは、“ビールは瓶”っていうところが多いからさ。
ママとの会話――いきなり「ママ」って呼ぶのも緊張……
ママの個性がお店の個性ってところあるから、まずはママがどんな女性(ひと)なのか、「受け身」の姿勢をとりながら探るとおもしろいよ。初めてのお店では、ママが質問して、お客さんが答える。知り合いの落語家なんか、最初に郵便局員だって言っちゃって、3年それで通してさ、最終的にはバレたらしいんだけど、そうゆう遊びもできるわけですよ。
女性に年を聞くの失礼ってのあるけど、「ママ何歳?」って聞いても「27歳。永遠の」なんて笑顔で返してくれたりするし、ママのテンションに合わせて会話を楽しめばいい。ざっくばらんなのが、スナックのいいところだからさ。
スナック初心者は常連さんにどう接したらいいの?
初めてのお店で自分から他のお客さんに話しかけるのはハードルが高いよね。酔ってるとさ、虫の居所が悪かったりして「あん? 馴れ馴れしいな兄ちゃん」なんてムッとする人もいるし。
まずは、“敵じゃない”ってわかってもらうのが先だよな。常連さんが歌ってるときに必ず手拍子するっていうのは有効だね。
常連さんとは、どうやって会話を始めたら良いですか?
鉄板なのは、“ママを壁にして、会話のキャッチボールをすること”だな。たとえばだよ、俺がカウンターに座ってるとして、隣の席ひとつあけて常連さんがそこに座ってる。俺はそのお店が初めてだ。で、ママと常連さんが会話してるとするよね。そしたらその話に聞き耳をたてるんだよ。どういう人となりか、なんとなくわかってくるからね。
そこからが肝心。趣味の話になってたりして、俺も興味ある内容だなと思ったときは、いきなり常連さんに話しかけるんじゃなくて、ママのことを見るわけよ。俺も話、聞いてるよ、って雰囲気で。
そしたらママも察してこちらにボールを投げてくれたりするんだよな。ママという壁が(笑)。こっちが壁(ママ)に投げ返すと、壁(ママ)が空気を読んで常連さんにボールをパスしてくれる。今度は常連さんが壁(ママ)に投げたボールがこっちに飛んできたりさ。
別にその常連さんと直接会話してないんだけどさ、ママと常連さんと俺とで「ハハッ」と同じタイミングで笑っちゃったりするとかね。ママを上手に使うと、スムーズにお店になじめると思うよ。
数回通うとさ、常連さんそれぞれが来る曜日がわかってくるから、「今日はあのひとと会話しに行くかな」なんていう使い方もできるようになるんだ。いい壁(ママ)があると、わきあいあいの雰囲気で、たいてい繁盛店になってるね。
女性でもチャレンジしたい! 初めてのスナックで楽しむコツを、教えて!玉ちゃん
最近スナックに女性客増えたよね、めちゃ増えたのよ。なぜだかわかんないけど、やっぱりさ、浦安のほうの夢の国にはね、ホントは夢はねえんだって気づいたんだろうな。実生活のフィードバックなんかさ、ぬいぐるみ持って帰るくれえじゃねえの?
でもさ、そうじゃないもんね、スナックは。実生活に存在してるのがスナックだから。そいでおもしろいキャラクターが毎日さ、パレードやってるわけだから。カラオケっていう(笑)。
ママもおじさんたちも歓迎してくれるから、女性もどんどんスナックに行くといいよ。セット料金が男性より女性のほうが安いお店もけっこうあるし。あ、あとカラオケ歌うなら松田聖子と山口百恵をおさえとくと間違いないよ。これプチ情報ね。やっぱ男には歌えない「女の歌」が、ウケるんだよな。
食事も充実!? スナックでご飯食べても良いですか?
スナック飯(めし)といえば、俺にとっては「焼うどん」。乾きものだけじゃなくて、お通しが発展して本格的な料理を出すお店もけっこうあるよ。
とあるスナックなんかさ、すごいよ。そこの大ママとママが作る料理が3000円で食べ放題だからね。「食べ放題」で「言いたい放題」よ。「だってアタシたち料理作るの好きなんだもん」っつって、ストップって言っても出てくるよ。
ママのふるさとから取り寄せたものを出してくれるのは嬉しくなっちゃうよな。平気でクサヤ焼いてくれるとこもあるし(笑)。そんでさ、お通しがポテサラとか生ものだったりしたら、早めに食べてあげてくれよな! なかなか箸をつけなくて干からびてるお通しって、切ないだろ?
ドキドキのお会計タイム。スマートなお勘定の方法を教えて!
カードより現金が喜ばれるよ。俺は近所のスナックにはデポジットしてたね。お金預けてた、3万くらい。ボトルキープより上の「お金キープ」っていう作戦とってたわ(笑)。それこそ寝間着で行けるようなスナックはそうしてたよ。残金が少なくなったらまたチャージしとくわけ。「ツケ」の逆バージョンね。ツケはダメだね、お店の負担になるようなことはカッコ悪いと思う。
でもさ、カッコつけようとしてキザにやりすぎるのも寒いよな。8000円のお会計で10000円払って「釣りは取っといて」くらいはまあ、感謝の気持ちかなって感じなんだ。でも、3000円のお会計のとき10000円で「あとはチップね」がカッコ良くみえるのは、場合によるかな。やりすぎちゃうと、ダサいんだよなぁ。
【番外編】スナックの鉄人・玉袋筋太郎が語る、忘れられないスナックの思い出
ママや営業形態がとにかく変わってるお店ってのも、そりゃたくさんあるんだけどさ、俺はそこから生まれる人間関係に惹かれるんだよな。そのへんの話、ちょっと聞いてよ。
とあるママがさ、自分の親族の墓参りより、お客さんの墓参りを大切にしてるわけよ。そういうのって、しびれちゃうよね。ママが言うにはさ、そのお客さんが亡くなって葬式に行ったときに、「お店でお父さんがいつも歌ってた歌」ってのを残された家族に教えたんだって。お父さんが外で何してたか、家族は知らないこと多いもんね。
そんなお父さんの家では見せない姿や歌ってた歌の話を聞いて、家族全員うれしくなって泣いたって言うんだよ。そういうなんちゅうの? iTunesではありえないことが、スナックにはあるんだよね。どのお客さんがどんな歌が好きかってことが、ママの頭の中にキッチリ整理されてるんだろうね。リアルiTunesだよ、ママって。
それと逆のパターンもあったなぁ。自分が何十年も通った店を家族に見せたいって、スナックに家族を連れてきたお客さんの話とかね。その客は何十年もさ、会社とかで背負わされた嫌なものをストンとおろす場所として、スナックを使ってたんだと思うよ。家族に見せたくないものをスナックに置いてさ、笑顔で帰宅してたんだろうな。
嫌なことを持って帰らないための、スナックよ。核と一緒。ストレスを家庭に持ち込まないっていうさ。「持たず、作らず、持ちこませず」ってあれだよ、非核三原則と一緒だな。
玉ちゃん流スナックのススメ――いつも心にスナックを――
スナックは日本中にあるんだ。ちょっと意識するとさ、繁華街の外れの路地にも住宅街にもあることに気が付くと思うよ。スナックに行くと自分の親世代のお客さんも多いし、そういうひとと話して親のこと考えるきっかけ作ってほしいよな。
俺のオヤジはもう死んじゃったけど、80代の常連さんと話すとオヤジが若いころの食べ物とか流行ってたこととか知れてね。オヤジが生きてたらいろいろ聞いてみたかったな~って考えるよ。
世の中いろんな人がいてさ、自分じゃ想像すらできない経験してる人とか、苦労してるひととかさ、スナックでは出会えるから。みんなも疲れてたり、悩んでたりしたら、ちょいとスナックの扉を開けてみてよ!
前・後編、2回にわたってお送りしましたスナック未経験者、初心者のための玉袋筋太郎さんによる解説はこれにて終了でございます。スナックへの愛が満ちあふれた熱いご指導はきっと、みなさまの心に届いたと思います。ぜひとも玉袋筋太郎さんのススメの通り、日々の疲れを癒すべく、スナックへ足を運んでみてはいかがでしょう?
―――次回はスナック女子(スナ女)の五十嵐真由子さんに、「女性もスナックで楽しめるテクニック」をご指南いただきます。女性目線のスナック活用法とはいかに⁉ 「工場タイムズ」女性読者の皆様、お楽しみに!
→ 続いて「はじめての女ひとりスナックを上手に楽しむには? スナック女子・五十嵐真由子さんに聞いてみました」を読む
玉袋 筋太郎(たまぶくろ・すじたろう)
お笑いコンビ、浅草キッドのメンバー。全日本スナック連盟会長。訪れたスナックの数は1000軒を超え、スナックの探求をライフワークとしている。近著に「スナックの歩き方」(イースト新書Q)、「疾風怒涛!! プロレス取調室」(毎日新聞出版)、「粋な男たち」(KADOKAWA)など
取材・文/志野順子(リヴァーライズ)
イラスト/コハラアキコ
写真/アナザーチョイス