ニュースなどでよく聞く「円高・円安」という言葉。でも正直、「円安(円高)になったといって自分に何か関係あるの?」と思っている人も多いのではないでしょうか。実は「円高・円安」の動きによって、わたしたちは損したり得したりすることがあるのです。
そんな「円高・円安」とは、そもそもどういうものなのでしょうか? 円高・円安が引き起こす影響への備え方とは?
『年収200万円からの貯金生活』をはじめ数々のベストセラーをもつ家計再生コンサルタントの横山光昭さんに、基礎の基礎から教えてもらいました。
8,000円のスニーカーが、円高になると3,000円も高くなる!?
こんにちは、横山光昭です。今回のテーマは、ニュースなどでよく聞く「円高・円安」です。
金融関連の仕事をしていなければ、普段の会話にはあまり出てこない言葉なので、遠い世界の話のように感じている人もいるかもしれませんね。でも「円高・円安」とは毎日のお金の使い方や、将来の生活資金にも大きく影響してくる、とても大切なものなんですよ。
ざっくりと言うと、円高のときは外国のものを買うと得、円安のときは損になります。
「外国のもの」には海外旅行や現地で売られている商品はもちろん、輸入品も含まれます。お店やネットショップで買いものをするとき「あれっ、この商品、前はもっと安かったのに」ということ、ありますよね。もしかしたらそれは輸入品で、円高から円安に切り替わったタイミングだったのかもしれません。
それなら円安には何もメリットがないのかというと、そんなことはないんですよ。
円高のときとは反対に「外国にものを売ると得」なので、海外に商品を輸出している企業にとっては追い風になります。自動車メーカーは、その最たる例。企業の景気がよくなれば、従業員の方々のお給料やボーナスも、上がりやすくなります。
それでは、なぜこのようなことが起きるのか、そのしくみを説明していきましょう。
海外旅行に行ったことがある人ならわかると思いますが、世界にはいろいろな通貨があります。わたしたち日本人は円ですが、アメリカならドル、中国なら人民元、イギリスならポンドで、お札や硬貨のデザインもそれぞれ違いますよね。
国内で買い物をするときは、単に価格通りのお金を支払えばいいのですが、国境を越えて輸出・輸入を行う場合はそうもいかなくなってきます。「1ドル(1ポンド、1人民元)は何円に値するのか?」ということが問題になってくるわけですね。
たとえばアメリカで100ドルで売られているスニーカーを買う場合について考えてみましょう。1ドルが80円のとき、100ドルのスニーカーは8,000円で買えます。でも、1ドルが110円なら、11,000円も出さなければ買えません。同じ100ドルのスニーカーを買うにしても、1ドルが80円なのか、110円なのかによって、3,000円もの差が出るのです。
ニュースが毎日のように「本日正午時点は1ドル=〇円〇銭で、昨日と比べて〇円〇銭の円安」など、時間単位や銭単位で細かく値動きを伝えてくるのも、こういった理由があるからなんですね。
円安が続くとわたしたちの生活はどんどん厳しくなっていく!?
去年1ドルは80円で交換できたけれど、今年は1ドルを交換するのに110円必要になったと仮定しましょう。これは円の価値が30円弱くなったということなので、「30円の円安」と言います。
「えっ、80円が110円になったんだから円高じゃないの?」という人、それは逆です。去年は1ドルのものを80円で買えていたのが、今年は110円出さないと買えなくなったのですから、円の価値が低くなってしまったんですね。円の価値が低くなること。それが「円安」です。
だから、円安のときに外国の商品を買う(輸入)と損をしてしまいます。自分の国の商品を外国に売る(輸出)のが得になるんです。円高のときはこの逆になります。輸出を控えて輸入を強化するのが得策です。
ただ、日本は資源が少ない国なので、まったく輸入に頼っていない企業は少数派。だから円安だと多くの企業は損をしてしまいます。そのため円安が続くと物価が上がって景気が悪くなり、反対に円高が続くと物価が下がって景気がよくなると言われています。
また、よく聞く「インフレーション」「デフレーション」という言葉は、物価が継続的に上がったり(インフレ)下がったり(デフレ)することです。先ほどお伝えした通り、日本では円安だと物価が上がり、円高だと物価が下がると言われています。
読者のみなさんはインフレを経験したことはないかもしれませんが、デフレは経験したことがあるはず。100円均一ショップで「こんなものまで100円で買えるの!?」と驚いたことはありませんか? これもデフレのひとつのあらわれです。
では、今の日本はどういう状態なのでしょうか?
IMF(国際通貨基金)の調査によると、日本はインフレに向かっていっており、円安で円の価値はどんどん弱くなっていくと伝えられています。今後、ものの値段はどんどん高くなっていくというのは、ほぼ間違いないことでしょう。
円安が続いてインフレに向かうこれからは「使ってないのに貯金が減る」時代⁉
くり返しになりますが、これから日本がインフレに向かうということは、物価が上がるということです。その分お金の価値が下がっていきます。100円均一ショップで驚いていた頃とは逆に、「1万円も出したのに、これっぽっちしか買えないの!?」という厳しい時代がやってくるのです。
仮に銀行預金が1,000万円あったとしましょう。物価が1年に3%ずつ上昇した場合、20年後の1,000万円の価値は、物価が上がり続けたぶん553万円相当に下がってしまいます。なんにも使っていないのに、お金が半分になってしまったも同然です。
ここで注意してほしいのが、インフレで下がるのは「お金(現金)の価値」だということです。先ほどお伝えした通り、輸出企業の景気はよくなりますので、手元にある現金でこうした企業の株を買うのもいいでしょう。値上がり益(ねあがりえき・安く買った株が値上がりし、高値になったときに売ることで得られる利益)を得られる可能性が高くなります。また、現金をデフレ基調にある国のお金や現地企業の株などに換えておけば、価値は上がり続けるでしょう。
大事なのは、貯金を現金のままにしておかず、これから価値が上がるであろう資産に換えておくこと。つまり、投資をすることなんです。今手元にあるお金を投資にまわし、これらの資産に換えておけば、インフレによる現金価値の目減りのあおりを受けずにすみます。
親御さんから「コツコツ貯金するのが一番だ」「投資なんて危ないからやめなさい」などと言われたことのある人はいませんか。親御さんの時代は、それでよかったんです。銀行預金の金利も高かったので、毎月のお給料を口座に入れておくだけで、数十年だったらまとまった額のお金になっているのが普通。終身雇用制が生きていて、定年したらみんなが退職金をもらえましたし、年金も十分な額が支給されていました。
しかし、わたしたちは違いますよね。低金利が続き、退職金にも年金にも頼り切ることはできない。親御さんとは違う常識で、マネープランを考えなければいけないんです。「インフレになるから、貯蓄から投資へ」というのは正しいのですが、少し単純すぎます。
本質的に大事なのは、自分で考えて資産形成をしていくこと。今回の記事が、今まで「面倒だ」「難しそう」と思っていた金融・経済の情報にちょっとだけ向き合うきっかけになればと思います。
取材・文/Tokyo Edit 撮影/河野英喜 イラスト/コダイラショウヘイ デザイン/小久江厚(ムシカゴグラフィクス)