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メーカー潜入! VRはこうして作られる | VR最前線! 成人向けコンテンツからはじまるテクノロジーの普及と未来 〜後編〜

2018/12/10公開

世界に類を見ない独自の発展を見せている日本の成人向けVR。その映像はどのように撮影されているのだろうか? それを探るべく、筆者はクリエイターたちへの接触を試みた。女優・戸田真琴さんへのスペシャルインタビューも!

初期のVR撮影は大失敗だった!?

取材を快く引き受けてくれたのは、大手メーカー“ソフト・オン・デマンド”が設立したメーカー“SODクリエイト”のプロデューサーである金井陽平さんとVRテクニカルディレクターの柏倉弘さんの両名だ。

熱く語るSODクリエイトの金井陽平さん(写真左)と柏倉弘さん(写真右)。VR業界を牽引する2人である

2人は2016年からVRの撮影を開始。紗倉まな、市川まさみなどの人気女優が出演する作品のほか、企画性やシチュエーション性の高い作品などを300本以上制作(2018年7月現在)。現在、毎月20本ものVR作品を世に送り出している。

しかし、ここまでにいたるまでの道のりは決して平坦ではなかった。プロデューサーの金井さんが語る。

「VRにはいくつかの種類があります。大きく分けると、平面的な映像を広く見渡せる2D撮影、2Dよりも見渡せる範囲は狭いが被写体が立体的に見える3D撮影の2種です。我々は当初は2Dの手法を選択していました。ところが、2D作品はお客様からかなりクレームをいただきました。多くの方がVRイコール、立体的に見える3D映像、いわば女優が飛び出てくるものだと思われていたんです。しかも映像を配信したとき、ビットレートの問題から映像が荒くなってしまうこともありました。ともに我々のリサーチ不足の結果です。その後、2Dで撮影した作品は、すべて商品を取り下げました」

カメラが熱暴走して現場が止まる

こうして現在の3D VR作品が登場するわけだが、それも容易に作れるものではなかった。VRテクニカルディレクターの柏倉さんが解説してくれた。

「当社のVRでは人物を撮影します。ところが人物を2Dや3Dで撮影できるムービーカメラは、市販されていません。なので、撮影システムを自作するしかなかった。試行錯誤の末にたどり着いたのは、スポーツ撮影に使われているアクションカメラの『GoPro HERO4』を2台連結し、それぞれに270度撮影が可能な魚眼レンズを装着。

音声には、リアルな息遣いを収録することが出来るバイノーラル・マイクを使用。女優の顔に影が出ないよう、補助的なLEDライトも付加する。それをクレーン型のスタビライザーで釣る。これがSOD VRの基本的なシステムです。しかし、VRの撮影技術は日々、進歩しており、さらに高品質なカメラを使用したシステムもあるのですが、それは企業秘密となっています。現在、メディアで公開出来るのはこの機材だということをご了承ください」

オリジナルVRカメラ。本機の発展版カメラも数台ほど存在しているが、社外秘のため、ここでは公開は出来ない

研究に研究を重ねて作り上げられた撮影機材は、まさに異形だ。ちなみに、これでもシステム的には、まだ完璧なものとは言い難い。

「撮影中にGoProが熱暴走でフリーズするんですよ(笑)。こうなると手も足も出ません。現場は一旦ストップです。カメラが回復するまで待つわけですが、それでは女優さんやスタッフのテンションも下がりますし、スタジオの使用時間が超過して追加料金が発生する可能性だってある。今では予備のカメラを用意したり、室温を調整したり、熱暴走しないように撮影直前まで小さなファンで冷却するなどの対策をしています」(柏倉さん)

カメラの熱暴走を避けるため、扇風機やファンで冷却。水色Tシャツの男性は男優だ

魚眼レンズを装着した2台のGoPro HERO4。後継機種も出ているが、現時点では本機のほうが使い勝手が良いという

撮影現場、全景。広めの1LDKの部屋に女優・男優を含め、約10名のスタッフがひしめき合っている

女優の演技力が要求される演劇的な現場

VRを作るために必要なのは機材だけではない。主役である女優、そして男優ら役者たちも重要な要素だ。撮影現場では女優に何が求められているのだろう。前出の金井氏に聞いた。

「撮影を続けるうちにわかったことなんですが、女優に求められるのは演技力です。VRの撮影は基本的にカメラを固定して行います。なぜかというと、カメラが動きすぎると視聴者の方に『VR酔い』と呼ばれる症状が出てしまうからです。VR酔いは車酔いのようなもので気分が悪くなります。それを防ぐには、なるべくカメラを固定するしかない。逆に言えば、女優がレンズに向かって積極的に動かないとダイナミックな映像が撮れないのです。結果的に、撮影経験が豊富な現場慣れした女優を起用すると、良い作品が撮れることがわかりました」

VRカメラから覗いた、カメラテスト中の風景。監督と女優がカメラ位置を確認しながら演技のリハーサルを続ける

モニターに映し出されるVRカメラの映像。2つのレンズのピント合わせるために、30分以上の時間をかけて調整していた

単独インタビュー・戸田真琴が語るVR撮影現場

実際にVR作品に出演したことのある女優にコメントをもらった。

戸田真琴(とだまこと)さん(21)は2016年にデビューしたSODクリエイトの専属女優。雑誌『TVBros.』(東京ニュース通信社)で連載を持つ才女で、2018年7月現在までで計10本のVR作品に出演している。

戸田真琴。映画にも明るく、自身のブログに書いた映画『シン・ゴジラ』批評は話題を呼んだ

「『VRってカメラに向かって話しかけてるだけじゃん』って感じるユーザーさんもいると思うんですが、演じる立場としては普段の現場とはかなり違うんです。

多くのVRは数十分のシーンを一気に撮ります。途中でNGを出したら始めからやり直し、なんてことも。そういう意味でVRはかなり演劇的です。撮影前にディレクター(監督)からは、作品の設定の説明や演技の指導を、細かくしていただきます」

演出の時間は平均で30分。1時間近くにも及ぶこともあるという。その後、本番スタート。カメラが回りはじめるわけだが、そのとき女優はどんな演技を行うのだろう。

「数十分のシーンを一気に撮影するんです」(戸田真琴)

「VRで実際にそこにいるように見せるためには、普通のビデオにはない“レンズに対しての前後の動き”をします。たとえばレンズから離れたところから動き始めて、レンズに向かって話しかけるときは、レンズに20cmのところまで近づく。近づくときは、素早く近寄る、とか。こうするとユーザーさんにドキドキ感を与えることができるんです。

あと、私の場合はカメラをファンの方やユーザーさんだと思いこみます。『どうしたら喜んでくれるかな? どうしたら私のことを愛してくれるかな?』と必死に考えながら。まさに頭脳プレイです」(戸田真琴さん)

「レンズの向こう側にいるユーザーさんへの“愛”を込めるのが、VR撮影のコツ」(戸田真琴)

SODのVRカメラには、2台のレンズの間に猫のシールや唇のシールが貼り付けられていることが多いという。それは演じる女優が少しでもレンズ(つまり視聴者)に感情移入出来るように、という配慮からだ。

前出の柏倉氏によると、「これがあるとないとでは女優の眼力が違う。カメラに対して愛情が入ると目の虹彩に変化が出て、瞳に輝きが出る」とのことである。

楽屋とメイクルームは兼用。女優たちの休息の場でもある。本撮影時の某女優はVR初体験だったため、休憩中も台本を読み返していた

楽屋には“ツナギ”と呼ばれる様々なお菓子やドリンクが置かれている

一方、男優のほうはどうなのだろう。前出の金井氏はこう語る。

「VR映像では、男優は(VRをご覧になっている)お客様の分身です。なのでカメラと一体化し、動かないことが求められます。また、バイノーラル・マイクは微弱な音も拾ってしまうので、声を出すのはNG。出来れば息もして欲しくないくらいです(笑)。

見た目も重要。一般的な男優のような筋肉ムキムキだと没入感が薄れるので、普通の体つきの男優を選びます。そういえば一度、男優に『スネ毛を脱毛してくれ!』と頼んだこともありましたね」

撮影のスタートを待つ男優。このままの姿勢を約1時間ほど維持しなければならない過酷な環境

VRの未来、それは五感すべてを刺激する方向へ……

VRの撮影現場は想像以上にアナログかつ繊細だ。実写でのVR撮影という発展途上な領域だけに、プロデューサー、ディレクター、スタッフ、女優、男優がそれぞれの技量と経験とアイデアを持ち寄り、試行錯誤を繰り返しながら現場を作り上げている。数カ月後に、新しい撮影技法や演出論、演技論が出てきてもおかしくないだろう。

実写撮影のVRは、今後どのように発展していくのだろう。プロデューサー金井氏は、目を輝かせながらこう予測する。

「そもそもVRは人間の五感を刺激する目的で開発されたものです。今は視覚・聴覚が中心ですが、そのうち嗅覚、味覚、触覚を再現できるテクノロジーが実用化されていくと思います。

その先駆けではないですが、私は個人で楽しむ際はVRのHMDに香水をかけて、その匂いでより女の子が近くにいるような感覚を楽しんでいます!」

「顔に『ビョーン!』って女の子が迫るのと同時に、匂いが『フワッ!』と来るんですよ」(金井)

確かに、そういった意味では成人向けの作品かもしれない。しかし、次々と作られる豊富なコンテンツやトライ&エラーを繰り返しながら前進するクリエイターたちの熱量は、一般のVR作品以上である。

VRの未来は、過去にもそうであったように、成人向けコンテンツがけん引していくのではないだろうか。

ヘッドマウントディスプレイとラップトップPC。映像とエンターテイメントの未来を変える存在だ

尾谷幸憲(おたに・ゆきのり)

1971年生まれ。ライター/エディター。インタビューやコラムの他、グラビアのプロデュースを手がける。著書に小説『LOVE※』『ラブリバ♂⇔♀』『J-POPリパック白書』『ヤリチン専門学校』。リア・ディゾン1st写真集『Petite Amie』構成担当。現在、『東京スポーツ』『ヤング・ギター』等でコラムを連載中。座右の銘は「健康・オア・ダイ」。

取材・文・撮影/尾谷幸憲(おたに・ゆきのり)

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