日本では、近年慢性的な人手不足が続いており、さまざまな業界で対策に乗り出す企業も増えてきました。
労働力の大きな原因のひとつに、人口の減少があります。日本では人口減少の原因となる「少子高齢化」が急激に進んでおり、それに伴って働き手となる人口も減少し続けています。将来、人材の確保はますます大きな課題となってくるでしょう。
本記事では、日本における労働力減少にまつわる情勢について、最新の官公庁データと合わせて解説します。
日本は人が少なくなってきている
労働力の減少に大きな影響を与えている理由のひとつに、日本の人口減少があります。実際、日本の人口はかつてなく減少していると言えます。
2022年10月時点の「人口推計(令和5年(2023年)1月確定値、令和5年(2023年)6月概算値))」によると、日本の総人口は1億2494万7千人。昨年から55万6千人減り、12年連続で減少しています。総人口は2008年をピークに2011年以降減少に転じており、現在も着実に進んでいます。
どうして子どもが少なくなってきた?
日本の人口減少に大きな影響を及ぼしているのが「少子高齢化」です。
厚生労働省の「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、2022年の出生数から死亡数を引いた自然増減数は、およそ80万人のマイナスと過去最大の減少を記録しました。高齢化による死亡数の増加も考慮すべきですが、それを下回る少子化の急速な進行も憂慮すべき状況になっています。
2022年の調査によると、子どもの出生数は77万747人で、前年の81万1622 人より4万875人減少。明治32年の調査開始以来、最少の数値となります。1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数である合計特殊出生率は、過去最低の1.26。最低限の人口の維持には、合計特殊出生率は2.06〜7が必要とされていますが、現状回復の見込みはありません。
なぜ日本でここまで少子化が進行したのでしょうか。その主な原因について解説します。
「未婚化」の進展
少子化の原因のひとつに、親となる若年世代の「未婚化」があります。独身のまま子どもを産み育てることも珍しくない諸外国に対し、日本は結婚せずに子どもを持つ人の割合が低い傾向があります。そのため、結婚は出生率に直接的な影響を及ぼします。
参照元:内閣府平成17年9月「少子化と男女共同参画に関する専門調査会
内閣府の調査(内閣府「令和4年版 少子化社会対策白書」)によると、いわゆる「結婚適齢期」と言われる年代(30歳から34歳)の未婚率は、1990年では男性が32.8%、女性が13.9%であるのに対し、2020年では男性は47.4%、女性は35.2%。つまり、現代では30歳から34歳の男性の2人に1人、女性の3人に1人が未婚です。また、50歳時の未婚割合=生涯未婚率も年々高まっていることが示唆されています。
未婚化の主な要因としては、
- 若年層の経済的不安
- 女性の就業率の高まり
- 独身のメリットが多い
- 結婚・子育てによる機会費用の増大
- ライフスタイルや価値観の多様化
などが挙げられます。
しかし、若者は結婚を望んでいないわけではありません。国立社会保障・人口問題研究所による2021年の調査(第16回出生動向基本調査)によれば「いずれは結婚するつもり」と考える未婚者の割合は、男性81.4%・女性84.3%と高い水準にあります。しかし上記のような未婚化の要因により、結婚・出産が後回しになる傾向は認められます。
「晩婚・晩産」の増加
厚生労働省の統計によると、1995年の平均初婚年齢は夫28.5歳・妻26.3歳であるのに対し、2022年では夫31.1歳・妻29.7歳というデータがあり、初婚年齢は年々高くなっていることが分かります。
晩婚化に伴って、出産する母親の平均年齢が上昇する「晩産化」が少子化の原因になります。日本では1995年の第1子出生時の母の平均年齢は27.5歳、2015年には30.7歳、そして2022年はほぼ横ばいの30.9歳と上昇傾向にあります。
結婚する時期が遅れると、それだけ妊娠できる期間も短くなります。晩婚化により子どもを複数人持つのが難しくなることや、高齢妊娠という母体のリスクを考え、子どもを持つことを諦める場合もあることなども、少子化に繋がっていると考えてよいでしょう。
仕事と子育てを両立するための環境整備の遅れ
教育費など、子育てにかかる費用が増大している現代では、夫婦が共働きで子育てをする家庭が少なくありません。出産・育児休暇や、短時間勤務制度、テレワークの導入など、仕事と子育てを両立できる環境整備の遅れも、少子化の理由のひとつと考えられます。
育児休暇については、第1子出産後も約7割の女性が仕事を続けており、正規雇用では育休取得によって就業を続ける女性が増加。その一方で、パートや派遣社員などの非正規雇用で、出産後も就業を続ける人口は、近年上昇傾向にあるものの低水準が続いています。特に収入・雇用が不安定な非正規雇用では、出産に踏み切りにくい状況があると言えるでしょう。
また、2021年の育児休業取得率は、女性は80%台で推移している一方で、男性は約13%と低い水準となっています。育児休暇の期間は、女性は9割以上が6か月以上取得する一方、男性は約5割が2週間未満の短期間の取得が中心。男性の育児休暇取得は、依然として「取りにくい」状況が続いています。
また、男性の長時間労働も育児時間の減少、ひいては家庭での女性の家事育児負担の増加に繋がります。今後も夫婦が協力して子育てできる仕組みづくりが急がれます。
参照元:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(夫婦調査)」(2021年)
子どもが少なくなるとどうなる?
日本では、少子高齢化によって将来社会を支える子どもの人口が減り、65歳以上の高齢者が増加すると予測されています。それに総人口の減少が加わり、主な働き手として社会を支える「生産年齢人口」の減少は避けられません。
生産年齢人口とは、生産活動の中心にいる人口層のことで、15歳から64歳までが該当します。内閣府の「令和4年版高齢社会白書(全体版)」のグラフからも分かる通り、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8,716万人をピークに減少しており、2050年には5,275万人に減少すると見込まれています。
人口減と少子高齢化に伴い、労働力不足だけでなく、経済への悪影響や社会保障システムの崩壊など、さまざまな社会問題の深刻化が懸念されます。生産年齢人口の縮小の影響について解説します。
経済社会への影響
少子化、ひいては労働力の減少は、経済社会に大きな打撃を与えると考えられます。
少子高齢化に伴う人口そのものの減少によって、働き手だけではなく買い手となる消費者の数も減少します。これにより日本経済全体が縮小すると、企業は国内事業への資金・設備投資を控え、従業員の雇用も減少します。また、将来に備えて貯蓄をする若年層が減り、貯蓄を取り崩して生活する高齢者の割合が増えると、社会全体で見た貯蓄額は減少します。これが投資の抑制に繋がり、さらなる経済成長率の低下を招くおそれがあります。
企業や業界が人手不足に陥った結果、人材の知識の集積によるイノベーションが起こりにくくなると成⾧力が低下し、経済成長率にマイナスの影響を与えることも懸念されてます。
社会保障負担の増加
少子高齢化社会では、少数の現役世代が多くの高齢者を支える必要があります。
高齢化に伴う医療費や介護費の増加により、2023年の社会保障給付費は、約134.3兆円となることが見込まれており、年々増加傾向にあります。この社会保障給付費が増えるに従って、現役世代の負担はさらに増大することになります。
社会保険料負担が増えることで、若年層の手取り所得は減少しつつあり、経済的な不安から、さらなる少子化へと繋がることも懸念されます。現役世代の過重負担を緩和するためにも、制度の見直しや給付のバランスの調整などの対策が急がれます。
参照元:国立社会保障・人口問題研究所「令和2(2020)年度 社会保障費用統計」
働く人(労働力)を増やすには?
日本の就業者数は、近年増加傾向にあります。2022年度の総務省の「労働力調査(基本集計)」によると、平均の就業者数は6723万人と、前年に比べ10万人増加(2年連続の増加) 。女性の就業者数は3024万人、65歳以上は912万人と、どちらも増加という結果が出ています。
このように、女性と高齢者の増加の余地はあるものの、少子高齢化の問題を抱える日本では、将来日本人だけで労働力を賄うのは難しくなると見込まれます。日本の人材不足解消に関して、最近の動向を交えて解説します。
女性・高齢者雇用の拡充
先ほど述べた通り、近年では女性と高齢者の就業率上昇は、日本全体の就業者数増加に大きな影響を与えています。日本でも今後、さらに女性・高齢者の採用が活発化していくと考えられます。
厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」における「離職理由別離職者の割合」を見ると、出産や子育て、介護など家庭の事情を理由に離職するのは、雇用形態に関わらず、男性よりも女性が圧倒的に多い状況があります。女性の離職を防ぎ、また再就職を目指す女性の人材を確保するためには、時間や場所の融通がきく柔軟な働き方の拡充や、賃金引上げを進める必要があります。
また高齢者については、2021年4月から施行された「改正高年齢者雇用安定法(参照元:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」)」により、65歳までの雇用確保(義務)と70歳までの就業確保(努力義務)を通して、事業主に対し、就労を希望する高年齢者が活躍できる環境の整備が求められるようになりました。
定年制の引き上げや撤廃、そして作業設備の改善や雇用形態の多様化など、高齢者が働きやすい職場づくりによって、今後も高齢者の人材確保が進むことが見込まれます。
外国籍人材の登用
日本が労働力を確保する方法のひとつとして注目しているのが、外国人労働者の受け入れ拡大です。
2022年には、日本で働く外国人労働者数は182万2,725人となり、前年から9万5,504人増加。届出が義務化されて以降過去最高を更新しました。それに伴い、外国人を雇用する事業所は298,790所、前年比で13,710所増加し、こちらも届出義務化以降、過去最高の水準となっています。(参照元:厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和4年10月末現在)」)
こうした外国人労働者全体数の増加に影響を及ぼしているのが、2019年に創設された新しい在留資格「特定技能」です。「特定技能」は人材不足の業種における労働力確保を目的とした制度で、介護や建設、農業など幅広い職種に就労することが可能となっています。(参照元:出入国在留管理局「特定技能制度」)
こういった新制度を用いながら、今後は外国籍の人材の幅広い受け入れも視野に入れた、労働力の確保の動きが本格化していくと考えられます。
本記事のまとめ
最後に、今回解説した労働力減少の問題点と解決に向けた取り組みをまとめます。
<問題点>
①労働人口の減少は、人口減少の問題と直結している
②人口減少の要因は少子化の加速であり、未婚化、晩婚化が要因
③少子化・人口減少に起因する労働人口の減少は、日本経済の縮小、社会保障の負担増加へ
④子育てと仕事を両立できる環境の整備が急務である
<対策>
①女性・高齢者雇用の拡充を図るとともに、働きやすい労働環境を整備
②特定技能制度等の活用により、外国籍人材の登用を促進
日本の労働人口減少の問題は複数の要因が絡んでおり、改善するためには様々な課題を克服する必要があります。また、その影響は私たちの日々の生活、社会の営みにまで及んでおり、今後も問題が深刻化することが懸念されています。
これらの問題点は、国の課題であると同時に、私たちひとり一人が一当事者として向き合わなければならない課題でもあります。女性や高齢者の方の雇用促進、外国籍の方が働きやすい労働環境を整える等、企業としてできることは多数あります。また、率先して労働環境の改善に対して意見や提案を述べたり、与えられた権利として育児休暇を申請したりする等、個人でも行動に移すことはできるはずです。
次世代へより良い社会を継承するために成すべきことを共に考え、行動していきましょう。