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高齢者を会社の力へ~高齢者雇用の問題点と対策~

高齢者を会社の力へ~高齢者雇用の問題点と対策~

2023/09/11公開

人口減少と高齢化という社会構造の急速な変化を受け、女性や外国人、そして高齢者など多様な人材への期待が高まっています。生産年齢人口(15〜64歳)の減少が進む日本において、高齢者の就業拡大は企業の労働力不足の緩和や日本の社会保障費の安定化などの利点があります。企業においても、70歳までの就業機会の確保のための措置を、段階的に講じることが求められています。

人生100年時代と言われる現代に、いかにシニア人材を活用するか。将来の企業経営に少なからず影響を与えるであろう高齢者雇用の問題と課題について、最新の官公庁データと合わせて解説します。

生涯現役社会に向けて

働く意欲のある方が年齢に関わりなく、希望に沿って個人の能力を発揮できる社会を「生涯現役社会」と言います。

50年後の日本の総人口は現在の人口の7割に減少し、65歳以上の人口はおよそ4割を占めると予想されています。(参照元:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」)

少子高齢化により、新卒者など若年就業者の採用が難しくなり、労働力と企業の成長力の確保が課題になる中で、経験や知識を有するシニア人材が、意欲のある限り働くことができる社会の実現が目指されています。

生涯現役社会の実現を目指すため、まずは現在の高齢者雇用の状況を解説していきましょう。

「働きたい高齢者」は増えている

現代の日本には、十分に働くことができる心身の健康と就業意欲を持った高齢者(アクティブシニア)が増えています。

2019(令和元)年における日本の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳である一方、日常生活で病気や障害による制限を受けない年齢=「健康寿命」は男性が72.68歳、女性75.38歳とのデータがあります。この健康寿命は平均寿命よりも伸び幅が大きくなっており、健康な高齢者は年々増加していると言えます。

表:「令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-平均寿命と健康寿命の推移」をもとに作成

また、現在収入のある仕事をしている60歳以上の高齢者に対し「あなたは、何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいですか」という質問には、「働けるうちはいつまでも」との回答が約4割を占めました。「70歳まで」、それ以上と答えた割合と合算すると、およそ9割の高齢者が就業に対する意欲を持っているという結果になります。(参照元:内閣府「令和5年版高齢社会白書」 高齢期の暮らしの動向

このように、就業意欲の高いシニア人材は今後も増加していくと考えられます。彼らの雇用を確保し、企業の戦力として生かしていくための対策を講じることが求められているのです。

高年齢者雇用安定法とは

高年齢者雇用安定法とは、年金の支給開始年齢の引き上げを踏まえ、労働者の60歳未満の定年禁止と、65歳までの雇用確保を義務付けている法律です。2021年には急速な高齢化の状況を反映し、70歳までの就業機会の確保についての選択肢を整備するため、法律の一部が改正されました。(参照元:厚生労働省 高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~

ここからは、高年齢者雇用安定法改正により事業主が講じるべき措置と実施状況について解説します。

事業主が講じるべき措置

改正法は「70歳就業法」や「70歳就労確保法」とも呼ばれており、以下の措置を講じるよう求められています。

・70歳までの定年引き上げ
・定年制の廃止
・70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
・70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 (創業支援等措置)
・70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 (創業支援等措置)
 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

参照元:「高年齢者雇用安定法 改正の概要

改正法では、高齢者が継続雇用制度で働く場が自社(または自社グループ企業)だけでなく、他社(または他社グループ企業)に拡大されました。また、高齢の労働者の多様な働き方の支援として「創業支援等措置」が登場し、高齢者の雇用以外の働き方を後押しをすることが求められています。

また、解雇などにより離職する高年齢者等が再就職を希望するときは、求職活動に対する支援や再就職のあっせん、教育訓練などの実施、受講のあっせんなどの再就職援助措置を講ずるよう努めることとされています。

高齢者の雇用状況

実際の高齢者の雇用状況はどのようになっているのでしょうか。厚生労働省の発表によると、65歳までの雇用確保措置を実施済みの企業は、調査対象の235,875社のうち235,620社(99.9%)とほぼ完了しており、内訳としては以下の通りです。

1.定年制の廃止は9,248社(3.9%)
2.定年の引上げは60,037社(25.5%)
3.継続雇用制度の導入は166,335社(70.6%)

このように、定年制度の見直しよりも、継続雇用制度の導入により雇用確保措置を講じている企業が7割と多数を占めていることが分かります。

また、全企業において、70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は65,782社(27.9%)で2.3ポイント増加という結果となりました。あくまでも努力義務であり、すぐに取り組む必要はないとされていますが、将来の深刻な人材不足を見据えて、制度や仕組みづくりを進めている企業は少しずつ増えているようです。

参照元:厚生労働省「令和4年高年齢者雇用状況等報告

企業における高齢者雇用の課題

生涯現役社会の実現には、企業の積極的な取り組みが欠かせませんが、課題が多いのも事実です。高齢者雇用には次のような問題があります。

・雇用機会の不足
・経験・スキルと仕事内容のミスマッチ
・多様な働き方への対応
・安全面・健康面の問題
・賃金低下

それぞれの問題について、詳しく解説します。

雇用機会が不足している

65歳を超えても働きたい高齢者はおよそ7割いるものの、「希望者全員」が65歳を超えて働ける仕組みのある企業はおよそ2割に留まっています。(参照元:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」

企業で継続雇用されなかった人や、家庭の事情で離職を選んだ人などの中には、就業意欲の高い高齢者も多数いると考えられ、彼らの就業機会をどう確保していくかが重要な課題となっています。

まずは、ハローワークやシルバー人材センターと企業が連携し、企業と働きたい高齢者とのマッチングを進めるのが望ましいでしょう。

安全面・健康面の問題

前述の通り日本の健康寿命は上昇しているものの、老化による体力や認知機能低下などの健康問題は高齢の労働者につきまとう課題です。

企業に求められているのは、高齢者が安全に働ける環境づくりです。職場環境の改善をはじめ、高齢者の健康・体力の状況の把握などを行い、就業中の災害防止対策に取り組むこと大切です。

経験やスキルを活かせる場が不足している

高齢者の希望する仕事と、企業の想定する仕事とのミスマッチが発生する懸念もあります。

定年前後での仕事の変化について、定年前とまったく同じ仕事をしているという高齢者は44.2%に留まっています。(参照元:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」

長年培ってきたスキルやノウハウを活かせる仕事を希望する高齢者も多いはずです。しかし、本人が期待する役割や成果とは違う仕事を割り振らざるを得ない状況も考えられ、それが就業に対するモチベーションを下げる可能性もあります。

職務内容が変わる場合は、高齢社員に「何を期待しているのか」を明確に伝え、そして働きぶりを適切に評価することで、このミスマッチを防ぐことができるでしょう。他にも、新たな職種を新設したり、新たな事業に進出したりするといった取り組みも有効です。

多様な働き方への対応が追いついていない

高齢者雇用においては、健康状態や家庭の事情など、労働者本人の置かれている状況や希望による働き方の多様化も注意すべき課題となります。フルタイム勤務だけではなく、フレックスタイム制、短時間勤務や隔日勤務、テレワーク制などを導入していくことも有効です。

また高齢社員のための勤務形態の多様化は、全社員にとって働きやすい環境に繋がります。柔軟な働き方の整備を進めることで、高齢者だけでなく、将来を担う若者や女性の人材確保も期待できるでしょう。

さらに生き生きと働く高齢者は、若者やミドル層にとって、人生のロールモデルにもなりえます。

本記事のまとめ|高齢者雇用の課題

最後に、今回解説した内容をまとめます。

〈高齢者雇用の現状〉
・労働力不足解消にシニア人材の活躍は不可欠
・就業意欲の高い高齢者は増加
・70歳までの就業機会の確保が努力義務化

〈高齢者雇用の課題〉
・雇用機会の不足解消
・高齢者の職域拡大
・作業設備の改善など、安全で働きやすい職場づくり
・柔軟な勤務形態の整備など、雇用管理制度の改善

人生100年時代の到来により、60歳以降の20〜30年間をいかに社会や働く高齢者にとって有意義なものとするかは、企業をはじめ、社会全体で取り組むべき課題です。また、生涯現役社会の実現には、労働環境の整備や制度設計のみならず、労働者が高齢期を迎えても能動的かつ意欲的に働きたくなるよう啓蒙・啓発することも重要です。そのためには、高齢期の生活設計や社会人の学び直し(リカレント教育)、元気に働き続けられる健康維持などについて、マネジメント・支援・動機付けを行うなどの方法が考えられます。

国や自治体の施策をもとに、企業と労働者が一体となり、生涯現役社会の実現に向けた積極的な取り組みを行っていきましょう。

次回の記事では、高齢者雇用のメリットや社会的意義について、本記事の課題などを踏まえて詳しく解説していきます。

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