美しい自然表現と魅力的なキャラクター、そして生き物のように動く機械たち…! スタジオジブリが描くアニメーションは、世界中のファンを捕らえて離さない魅力がありますよね。
今回、そんなジブリ作品の中から工場のシーンがあるアニメをピックアップ! こだわりがぎゅっと詰まった描写や、作品の背景などの豆知識などを合わせてご紹介します。
スタジオジブリの”工場シーン”描写がすごい!
今回取り上げるのは『天空の城ラピュタ』や『千と千尋の神隠し』など、誰もが一度は観たことがある名作アニメを生み出してきたスタジオジブリです。
一度でもジブリ作品を観たことがある方なら知っていると思いますが、作品には機械、特に飛行機(飛行船)が数多く登場しますよね!
『風の谷のナウシカ』の「メーヴェ」などの小さな空飛ぶ乗り物から、『ハウルの動く城』の「飛行戦艦」などの恐ろしい戦闘機まで、その種類も形も様々。
作品の中には、機械を生み出す工場の様子が描写されているものもあり、まるで機械ひとつひとつが大きな生き物のように、躍動感たっぷりに描かれているのも印象的なんです!
ジブリの”機械愛”は宮崎駿監督のルーツにあった?
そもそも、宮崎駿監督の実家は「宮崎航空興学」という飛行機部品の製造工場。
まるで生きているかのように、愛をこめて描かれている機械たちの描写は、そんな彼のルーツにも由来しているのでしょうね。
ここからは、そんな”アニメの町工場”スタジオジブリのこだわりの工場シーンをご紹介します。アニメのあらすじや、作品の豆知識も合わせてチェックしていきましょう!
紅の豚
まずご紹介するのは、1992年にスタジオジブリで制作された『紅の豚』です。
物語の舞台は、大恐慌時代のイタリア。元軍人のポルコ・ロッソは、アドリア海の小島を拠点に、空中海賊退治を請け負う賞金稼ぎとして暮らしています。
ある日、ポルコは愛用の飛行機「サボイアS.21試作戦闘飛行艇」でミラノに向かう途中、運悪く撃墜されてしまいます。
彼は仕方なく、ボロボロになった愛機を、昔馴染みの設計技師ピッコロのおやじのもとに持ち込みますが、修理を担当するのはなんと17歳の孫娘フィオで…。
「カッコいい飛行機乗りになりたい」…紅の豚は、そんな宮崎駿監督の夢が詰まった作品です。
フィオに一生付いていきたい。
男のロマンを追い求めるポルコ。いつ観てもかっこいいですよねぇ。(豚なのに)
でもこの物語は、影の主役、設計技師フィオのものづくりに対する情熱にも注目なんです!
実はポルコ、大切な愛機を修理するのが17歳の少女と聞き、依頼を撤回して帰ろうとします。しかしフィオに「上手くいかなかったらお金はいらないわ」と押し通され、しぶしぶ吞むことに。
その後、フィオはなんと徹夜で作業し、ポルコも納得の設計図を完成させるんです! ポルコが彼女に圧倒されている様子は、何度見ても笑ってしまいますよね。
設計図を説明している途中、彼女はサボイアの設計について「木の性質をよく分かってる」と評価するのですが、ここが最高ポイントその1。
フィオが持つ飛行機への情熱と豊富な知識が、言葉のひとつひとつから伝わってくるんです…! きっと誰もがフィオに「付いていきます! 」と言いたくなるはず。
働く女たちが最高!
実はこの時期、ピッコロのおやじの一族の男性は出稼ぎでほとんど出払っていて、家を守る女性たちが総出で作業に参加します。
そして、ここが最高ポイントその2!
女性たちの働きぶりは、電動のこぎりで部品を切り出したり、大きな部品を運んだりと、体力仕事もなんのその。溶接面を被って溶接作業しているマダムなんて、カッコよすぎませんか…?
また、全員で分担・協力して作業を進めていく様子からは、イタリア人ならではの家族の強い結束力も感じられます。
古い作品ということで賛否両論分かれるシーンもありますが、紅の豚の工場シーンは、個人的にNo.1とも言える工場描写がぎゅっと詰まっているので必見です!
もののけ姫
「生きろ。」というキャッチコピーと言えばこの作品。1997年公開、興行収入193億円を記録した『もののけ姫』の工場シーンを紹介します!
描かれるのは、室町時代の日本。エミシの少年アシタカは、村を襲撃したタタリ神と呼ばれる化け物を倒す際、腕にやがて死に至るという呪いを受けてしまいます…。
呪いを絶つ方法を求め、村を出て西へと向かい旅をするアシタカ。そこで彼は、山犬に育てられた少女サンと出会い、山と人との争いに巻き込まれることに…。
自然と人間との共存をテーマに描いた、誰もが知る大ヒット作です!
”たたら場”は中世の製鉄所
もののけ姫で注目したいのは、作品の舞台背景です。
アシタカが鉄の塊を持ってたどり着き「まるで城だな」と評した巨大なたたら場。「石火矢」を製造するための鉄を作る「たたら製鉄」を行うシーンが登場します。
このたたらの技術は古くから日本各地で発展し、明治時代に西洋の技術が入ってくるまで、日本の主要な製鉄方法として活用されてきたもの。たたら場は、まさに中世の製鉄所だったんです!
そんなたたら場では、女たちが巨大なシーソーのようなものを交替で踏むシーンも印象的ですよね。
ここで描かれているのは「天秤鞴(てんびんふいご)」という装置。強い火力を保つために空気を送り込む装置で、70時間ほど代わる代わる踏み続けるんだとか。(とっても過酷…)
もののけ姫は神秘的でファンタジックなストーリーが注目されがちな作品ですが、ここまで日本の工業の歴史を踏まえて描かれたものだとは…!
この緻密なリサーチはさすがとしか言えません。恐るべし宮崎駿監督…。
自然と人の共存について考えさせられる
「俺たちの稼業は山を削るし、木を切るからな…」という牛飼いの男のセリフの通り、たたら製鉄には燃料となる「大量の木材」が必要です。
実際に、たたら製鉄を行う山は木を切り尽くしてしまうため、同じ場所で続けることができず、製鉄所ごと各地の山を転々としていた記録が残っているんだとか…!
人間の生活が豊かになる一方で、環境破壊が進んでしまう…現代社会にも通じる問題ですよね。
森に住む生き物たちが人間との争いに破れ、儚く散っていく姿をしかと見て、環境問題について思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
風立ちぬ
最後にご紹介するのは、2013年公開の『風立ちぬ』。「美しい飛行機を作りたい」という夢を持った少年、堀越二郎の半生を描いた作品です。
東京帝国大学で飛行機の設計学を学んでいた二郎は、汽車の中で関東大震災に遭い、混乱の中、とある少女とお付きの女中を助けます。
その後飛行機の開発を行う「三菱」に就職、軍用飛行機の開発に携わるようになった二郎。ある時、休養を取るために向かった避暑地で出会ったのは、彼が震災から救った少女、菜穂子でした…。
彼女との儚いラブストーリーと、二郎の飛行機への思いが混ざり合う、美しく文学的な名作です。
生きているような飛行機や機械の秘密
風立ちぬは飛行機設計者の物語ということで、沢山の飛行機や乗り物が登場します。
うねるように動くエンジン、鳥のように翼を広げた飛行機の姿など、まさに宮崎駿監督の機械愛が随所に感じられますよね。
さらに注目すべきは、機械の「音」です。
実は、作品中の飛行機のプロペラ音や機関車の蒸気、車のエンジン音など、劇中の乗り物の音は、人間の声で表現されているんです!
よーく耳を澄ませて聞いてみると、確かに空気の震えが均一ではなく、どこか生き物っぽいような…。何度見ても新しい発見があるジブリ作品…やっぱり最高ですね!
”美しい飛行機”を作りたかった少年がたどり着いたのは…
堀越二郎が世界的に有名になったのは、第二次世界大戦で使用された「零式艦上戦闘機(零戦)」の設計者だからです。
徹底して無駄を排し、機動性に優れた飛行を可能にした零戦。皮肉なことに、二郎のものづくりの情熱が結実した「美しい飛行機」と言える傑作でした。
風立ちぬの冒頭、二郎少年が夢の中で乗っていた「鳥型飛行機」を思い出してみましょう。翼の先に鳥の羽のような部品が付いた小型の飛行機は、奇しくも零戦そっくりの形をしています…。
つらすぎる。これほど悲しい夢の叶え方ってあるんでしょうか…!
風立ちぬは、美しい物語の奥に戦争のむごさや悲惨さへの思いを秘めた、素晴らしい作品です。人の命の儚さついて、静かに考えてみたくなるはずですよ。
まとめ
ここまで、ジブリ作品の工場シーンについてご紹介してきました。
正直なところ、ジブリ作品にはまだまだ語り尽くせないほど、工場や機械が登場する魅力的なシーンが多数あります。
あなたが何十回と観たジブリ作品も、視点を変えて見ると新たな発見が必ずあるはず! ジブリ以外の作品も、今回のように視点を変えて観るのも面白いかもしれませんね。
制作:工場タイムズ編集部