まだまだ勢いが続くDIYブーム。しかもハマるのは女性が多く、ネットや雑誌では女性向けのDIY特集が人気を集めています。
そんな「DIY女子」がさらなる技術を求めて向かったのが「溶接」の世界。実際に、各地で行われる体験ワークショップは女性の参加率が高く、ついには女性向けの家庭用溶接機が発売されるなど「溶接女子」はじわじわと増えているよう。
そんな流れも背景に、今回工場タイムズが注目したいのが今年6月にオープンした「溶接女子会」というサイトです。こちらに登場するのは、DIYどころか、実際に製造や建築で溶接工として活躍中の「溶接女子」。彼女たちへのインタビューを中心に、溶接×女子に関するさまざまな情報が紹介されています。
そんなサイトの魅力を探るべく、運営する日本溶接協会にお話をうかがいました。
「溶接女子会」を通じて溶接の世界に触れてほしい
そもそも「溶接女子会」を立ち上げたきっかけはなんだったのでしょうか。日本溶接協会の担当者にうかがうと
「溶接の魅力を発信して、誰もが活躍できる職業であることを多くの方に知って欲しいという思いから『溶接女子会』を立ち上げました。
溶接というとキツイ・キタナイ・キケンのいわゆる『3Kの現場仕事』というイメージを持っているかたも多いのではないでしょうか。確かに溶接というのは一般的には馴染みのないお仕事です。子供のころに学校で教わるものでもなく、普通であれば鉄どうしをくっつける仕組みを知る機会などなかなかありません。でもほんとうは、身の周りの製品、それこそ皆さんが住んでいる家や、自動車や船、ロケットに至るまで、さまざまなモノが溶接技術で成り立っているのです。
とはいえ、自動車や船、ロケットに憧れる方はいても、それが生みだされるために溶接の技術が重要な役割を果たしていることに気づく方は少ないのではないでしょうか」
確かに、身の回りには溶接が施された製品がたくさんあります。作業自体を考えても、学校の工作などで体験する機会も多いハンダ付けもその一種。趣味で金属どうしを接合してアクセサリーを作ったり、DIYで人気のアイアンのネームプレートなど、初歩的とはいえ溶接の技術は案外身近なものかも知れません。
「溶接を極めようとすれば、確かに高い技能を要する専門職といえます。とはいえ本来は、お子さんでも指導員のもとであれば楽しく溶接を学ぶことも出来ます。初歩的なものから技能を修得してゆけば、誰もが溶接の職種で働くことができるんです。いまの溶接界ではお給料だって男女の隔たりなく、技能レベルに応じて高くなっていくんですよ。
溶接になじみのない方でも、まずは溶接女子会を見てもらって『こんな所も溶接で作られているんだ!』と少しでも興味を持ってもらえたら、私たちも嬉しいです」
アーク溶接の火花を前にカッコよく仕事をする女性たち
「溶接女子会」のコンテンツで工場タイムズが注目したのが、現場で働く「溶接女子」へのインタビュー。そこには家族と過ごすライフスタイルを考えて営業職から転職した女性、自分の作ったものが社会を支えたり地図に載るなどやりがいを感じている女性、長く続けられる仕事を求めてたどり着いた女性・・・などの姿が掲載されています。多彩な女性たちが登場し、溶接の仕事を知ったきっかけや、仕事をするうえで感じた溶接の魅力を教えてくれるのです。
インタビュー記事には実際に働く溶接女子の写真も掲載。防具をまとい、アーク溶接の火花や熱をモノともせずに、一つひとつの仕事を仕上げる女性たちの姿はまさに職人といえます。とはいえ防具を脱いだ姿は、笑顔が似合う普通の女性たちです。
「私たちがインタビューをして感じたのは、溶接界で働く女性は、高い向上心を持って仕事に取り組んでいる方が多いということでした。試験前には、仕事の合間に時間を取っての練習など、更に上のレベルを目指し、日々目標を持って仕事に取り組んでいらっしゃいます。
また、仕事だけでなく休日は自分の趣味に打ち込んだり、家族との時間を大切にされたりと私生活も活きいきと過ごされている印象を持ちました。
溶接女子が働く企業からも『女性がいることで職場の雰囲気が和らぐ面もある』『女性が入ると、職場環境が改善され、作業の効率化につながり職場の皆にとっても有益』といった意見もありました。例えば繊細さを求められるTIG溶接(ティグ溶接/アーク溶接の一種で、仕上がりの美しさが特徴)などは、女性向きと言われることもあります」
女性ならではのスタイルで働いている溶接女子。かといって「女性」を強調するのではなく“ 女性だから器用とか丁寧とは限らない。男性と同じで女性も性格はいろいろ。溶接はその気があれば性別、性格に関係なく誰でもできる ”と答える溶接女子もいて、この仕事の世界も性別などの分け隔てなく働ける世界に変わりつつあると感じることが出来ます。
「『溶接女子インタビュー』は今後も更新していきます。毎年開催される溶接技術競技会があるのですが、今年は東京と広島の2地区で女性選手が最優秀賞を受賞し、秋の全国溶接技術競技会へ出場することが決定しています。次回インタビューでは、この女性選手の活躍を取り上げる予定でいます」
男女隔たりなく出場する競技会での活躍など、「溶接女子」は技能面でもその存在感を示しているようです。
これからも進化し続ける「溶接女子会」
サイトには、ほかにも溶接の基礎知識や仕事内容、溶接に関する資格など、さまざまなコンテンツが用意されています。立ち上げて間もないサイトとは思えない充実ぶりですが、今後も注目のコンテンツが登場するようです。
「例えば『溶接女子7つ道具』。ファンデーションなどのメイク、女性用の道具など、現場で働く女性ならではの必需品を紹介するものを企画中です。『全国コンクールで溶接女子はかく戦えり』では、さきほどの女性以外にも、溶接技術競技会で好成績を収めるなど、全国で奮闘する溶接女子の戦術なども紹介したいと思っています。
もちろん、溶接女子のみなさん向けだけでなく、受け入れる企業の情報も紹介してゆきます。彼女たちの活躍をバックアップする会社も増え、例えば建設業界では女性専用休憩室や女性用トイレの設置など環境整備も進んでいるんです。日本溶接協会としても溶接女子が働きやすい現場作りを推進していますので、そうした取り組みもお伝えします」
溶接の世界では女性の活躍を求めている!
溶接の仕事は実にさまざま。金属加工の工場などの製造業はもちろん、鉄骨工事や配管など建設業界でも重要なお仕事です。それだけにより多くの人材が求められている世界でもあります。
「サイトにある「溶接のお仕事は増えている」というコンテンツでも、溶接技能者の需給ギャップを分かりやすく4コマ漫画にして示しています。2020年の東京オリンピックに向けて、インフラ整備等で溶接技能者の需要は増える一方なんです。さらには技能や経験のある労働者の確保が課題となっていて、人材を育成するのが業界の課題でもあります。未経験でも講習や現場の作業で経験を積み、資格を取得することができます。手に職をつけることで、安定した収入を得ることも可能なのです」
そうした環境のなか、男性だけでなく、新しい人材として業界が注目しているのが女性なのだそう。
「溶接技能者は丁寧さや繊細さを求められる部分も多くあり、女性ならではの視点も活かすことができる職業です。ですがイメージもあってか、日本で溶接に携わる女性の割合は全体の0.5%。アメリカの10分の1程度と少ないのです。
でも最近では、作業着やヘルメットなど女性用にデザインされた道具も増えていて、職場の環境整備も進んでいます。
少しでも興味を持った方は、ぜひ溶接女子会で紹介する実際に現場で働く溶接女子の声や、彼女たちの経歴を見てください。溶接女子のオンとオフも掲載していて、彼女たちの仕事ぶりだけでなく充実したライフスタイルの様子も知ることができます。
ぜひ多くの方に溶接女子会を読んで、溶接の魅力を知って欲しいです」
取材・文:工場タイムズ編集部/写真:工場タイムズ編集部