最近、作業服専門店のカジュアルウェアがレディースものを中心に人気になっていますよね。デザインが従来の作業服のイメージを変えるような、高いファッション性(=おしゃれ)をもち、防水や防寒、ストレッチ素材で作られているなど機能性・安全性にも優れ、さらに価格がお手頃になっているというあたりが支持を集める理由のようです。
ものづくりの現場においても、ファッション性と機能性を両立させ、既存イメージからの脱却をはかろうとしている企業があるのをご存知でしょうか?
その企業とは、「美しさを拓く。Find Your Beauty」をスローガンに、美容師と共に50年以上、女性の美しい生き方を応援している美容室用ヘア化粧品専門メーカー「株式会社ミルボン」(以下 ミルボン)です。工場タイムズで2018年6月に三重県伊賀市の「ミルボン ゆめが丘工場」で工場見学レポートを行った際、新ワークウェアのお話に触れました。いよいよその「デザインワークウェアプロジェクト」完成披露発表会が行われるということで、今回も取材に伺ってきました!
工場で働く従業員の作業服を刷新するというこのプロジェクト。果たして、どんなワークウェアが完成したのでしょうか!?
コーポレート・ブランディングの一環として社員が自発的に提案して始まったプロジェクト
発表会の冒頭で挨拶に登壇したミルボンの佐藤龍二社長によると、今回のプロジェクトは社員の行動規範「ミルボンウェイ」に基づき、生産工場としていかにミルボン品質を世に送り出していくのかを象徴するプロジェクトであり、コーポレート・ブランディングの一環として社員が自発的に提案して実施したものなんだとか。
企画発案者の梅村究さん(ミルボン生産本部生産技術部技術開発グループ ID開発 サブマネージャー)は、2016年にゆめが丘工場が増設したことをきっかけに「魅せる工場」として生まれ変わったものの、「作業服は変わっていない」ことに違和感を感じていました。
そこで今回のプロジェクトに取り組むにあたり、「作業者のモチベーション向上と、社員自身が見学者へ向けて『魅せる工場』の一環になることができないか」を考え、また現場で働く工場作業員が「美意識の高い女性が使用するミルボンの製品を作るのにふさわしい美意識を持つこと」を念頭にスタートされたとのこと。
ワークウェアのデザインを担当したのは、京都市立芸術大学・ビジュアルデザイン専攻修士課程1回生のみなさん。これまでミルボン製品のパッケージデザインを同大学の滝口洋子教授が監修していたことから、ゼミの学生7名とともに工場側のチームと意見交換を重ね、新ワークウェアのプロジェクトに取り組んだそうです。
誰か1人が描いたデザインが採用されているわけではなく、学生チームのアイデアと工場チームの意思が反映された、まさに産学連携で生まれたデザイン。
完成した新ワークウェアは、元は20点のデザイン画の中から選ばれたサンプル2点をブラッシュアップ、ファーストサンプルを制作し、ゆめが丘工場の社員による投票によって選ばれたもの。この日は、実際に現場で着用して働く男女2名がモデルとなって披露されました。
一見作業服には見えないスタイリッシュな新ワークウェアが完成
モデルとなった男女が登壇すると、その見た目は「おぉっ!カッコイイ!」と思わず言ってしまいそうなほどおしゃれなもの。新ワークウェアのシルエットはとてもシャープで、一見作業服には見えないほどスタイリッシュ。
スポーツ選手のチームウェアのようにも見える新ワークウェアに比べると、現在社員のみなさんが着用しているものは正直、いかにも“作業服”といった感じ。見た目を意識したデザインではなく、むしろ「作業で汚れることを前提とした、作業に徹するための服」といえそうです。
新ワークウェアのベースカラーは、汚れが目立たない黒を基調としたもの。前開きのジッパー部分の裏地(見返し)と袖口裏にはミルボンのコーポレートカラーであるパープルが、また上着の胸ポケットとパンツのポケットにも同じくコーポレートカラーのシルバーが施されています。
ちなみに胸ポケットはスマートフォンが入れられるサイズになっているそうで、このあたりが現代的な仕様といえそうです。機能性としても、作業をする上で動きやすいカッティングと、動きやすさをサポートするストレッチ素材が使われているとのこと。では、新ワークウェアの生地にはどんな素材が採用されたのでしょうか?
素材のコーディネートを担当したのは、「株式会社糸編(いとへん)」代表・宮浦晋哉さん。プロジェクト参加にあたって工場見学をした際、体を動かす作業がかなり多く見られたということで、ストレッチ素材の活用を決めたそうです。94%がナイロン、6%は東レが開発した「ライクラ」というキックバック(強く引っ張っても元に戻る性質)の強いポリウレタンを使っているとか。
実際に着用した男女の社員さんからは「しゃがんでも楽で動きやすい」という感想が。また工場で作業する人たちにとって気になるのが静電性(静電気の発生を抑えること)だそうで、そこで静電気防止を配慮した素材も一部採用されています。よりシビアな環境となる「クリーンルーム」に関しては、静電防止用のワークウェアを別途着用するとのこと。
スタイリッシュなだけではなく、毎日着用して作業するための機能性が充実した新ワークウェア。見た目がカッコ良くて作業もしやすいということであれば、非の打ちどころがありませんよね。ゆめが丘工場に見学に訪れた人から見ても、「ミルボン製品の美しさ」を従業員自身が体現しているということがダイレクトに伝わるはずです。
産学連携での取り組みが成功
こうした作業服刷新プロジェクトはこれまでなかったということで、完成までには紆余曲折、様々な苦労があったはずです。完成したワークウェアについて糸編の宮浦さんは、「お題が多い分時間はかかりましたけど、普段はできないくらいの作り込みができて楽しかったです」と、初めての取り組みにとても満足そう。
また、機能性重視のファッションが一般的に支持されていることについては、「2年ほど前から通気性、発汗性、スポーツ機能的な素材がメイントレンドになってきています」とのこと。
デザインを手がけた学生たちは、「デザイン画から見てきて、完成形になったときは感動しました。これを実際に着て仕事をする人がいるんだなと思うと、すごく達成感がありました」等々、口々に喜びを語ってくれました。
京都市立芸術大学の滝口教授によると、「今回のプロジェクトを通して学生は『使用者参加型のデザイン』や『問題解決型のデザイン』のプロセスを実践できたことが非常に大きかったと思います。それは、将来どんなジャンルのデザインをするときにも活かされる考え方だからです」とのこと。産学連携のプロジェクトに関わったことが、学生の未来にも繋がったという実感を得たようです。
「このワークウェアを着て働きたい」という方が1人でもいてくれたら、取り組んだ甲斐があった
「自分の個人的な思いから始まってるんですけど、それを会社が認めてくれたというのが、すごくありがたいなと思いました」と感慨深げに話してくれたのは、企画者の梅村さん。
190名以上もの社員が着用するとなると、賛成意見ばかりではなかったようですが、そうした声にも対応しながら「魅せる工場」を体現すべく完成に至った今回の新ワークウェアプロジェクトについて、改めて感想を伺うと
「将来的に『このワークウェアを着て働きたい』という方が1人でもいてくれたら、このプロジェクトに取り組んだ甲斐があったかなと思います」と思いを新たにしていました。
ミルボン品質を向上させ全員で力を合わせて市場に提供していくことをさらに深めていく
新しいワークウェアを身に着けて働く社員に対して「時代、時流に合わせてミルボン品質を向上させ、全員で力を合わせて市場に提供していくことをさらに深めていってほしい」とメッセージを送るのは佐藤社長。
ミルボンは、今後も美容師を通じて社会、女性に貢献していくという姿勢は大きく変わらずに、日本の美容はもちろんのこと、それを世界に伝えて行くことをグローバル戦略として考えているそうです。
また2019年からは新たな事業として、美容室専売の化粧品の販売を始めるとのこと。「我々がプロフェッショナル価値を作り、それを女性のお客さま1人1人に享受してもらい、そのことで美容師さんが豊かになっていく。それがミルボンの成長戦略になっていったらいいなと思っています」と、創業当時から変わらないミルボンの理念を語ってくれました。
新ワークウェアは、12月17日よりゆめが丘工場で働く生産本部の男性86名、女性105名(2018年9月末時点)が着用する予定。また、春夏用のワークウェアは現在開発に取り組んでいるそうです。
現在のところ海外のタイ工場での新ワークウェア着用は実施されませんが、今後はその可能性も。今回のプロジェクトが海外のものづくりの現場にまで波及すると思うと、なんだかワクワクしてきますね。
さて、今回はミルボン ゆめが丘工場の見学にはじまり、新ワークウェアの完成に至るまでを取材してきました。そこで発見したのは、「社員のみなさんがミルボンで働く喜び・誇りを持つことが、クオリティの高いミルボン製品を生み出し、美容室を通じて女性の美しさに繋がっている」という、ミルボンの一貫した思いがそのままブランドになっているということでした。
今後、製品づくりの現場のみなさんが新しいワークウェアを着用して働くことで、ミルボンの美への探求はより一層深まっていくことでしょう。
取材・文:岡本貴之
写真:工場タイムズ編集部 / 写真提供(一部):株式会社ミルボン