7月某日。もう夕方なのに、今日も暑いなあ・・・と思いながら原稿を書いていると、工場タイムズ編集担当S氏から電話が!
S氏「バリ取りのイベントがあるので、取材してきてください!」
ば・ば・ばり? 何ですか、それ? と問うが、
S氏「イベントはバリ取り大学が主催です」「あとは自分で調べて! よろしくね~」と電話終了。
・・・相変わらず爽やかに無理難題を言う男・S氏。
よくわからないままネットで調べてみると、ばりとはカタカナで「バリ」と書き「金属や樹脂などの素材を加工する際に発生するでっぱり(バリ取り大学HPより)」のこと。
でっぱり(バリ)を取るイベント? ・・・そもそも「バリ取り大学」って一体なに? と、その存在が気になり出し、眠れません。
イマイチよくわからないけど、恐る恐るバリ取り大学に電話をかけ、取材を申し込むとあっさりOK!
とにかくナゾの集会 = 「バリ取りイベント」に行ってみることに!
『バリ取りイベント』に潜入!
イベント当日の7月10日。セミが鳴く中、地下鉄半蔵門駅から皇居方面へ。流れる汗を拭きながら、徒歩5分ほどでイベントの開催場所であるビルに到着。
1Fの入口にイベントの案内板が! ということは、ここであっているのか・・・。
会場はどんな感じなんだろう? 会議室のちょっとした一室かな・・・とドキドキしながらエレベーターへ。すると・・・
会議室の片隅でバリを黙々と取るイベント(すいません)と思っていましたが、会場は広々としており、かなり大がかりな感じ。
・・・イベント開催まであと10分。続々とビジネスパーソンらしき人々が入ってきます。周囲を見渡すと、イベントの参加者はほぼ男性で女性は1~2人のみ。
スタッフの方はお揃いの紺色のポロシャツを着て、テキパキと参加者の案内を行っています。スタッフの方に確認すると「今日は50席が満席」とのこと。
と、ここで「バリ取りイベント」を主催するバリ取り大学の方々にインタビューを行うことに!
イベント主催者の『バリ取り大学』とは?
株式会社ジーベックテクノロジー(以下、ジーベック)の創業は、1996(平成8)年。バリ取り用の工具の開発・製造・販売を行っています。「よく外国の会社?」と聞かれるそうですが、「日本の企業です」と板橋さん。
今回の「バリ取りイベント」の正式名称は「バリ取りの日」。毎回テーマを変えながら2017(平成29)年から毎年開催しているそう。入場は無料(要事前予約)。
イベントの開催日は7月10日ですが、「バリ取り強化月間」は7月10日から8月10日(バリ取りの日 ← 810(バリ取り)にかけている)までの1カ月間。
なぜ1日だけではないのか? と質問すると、「1カ月の間に日頃のバリ取りをされている方に感謝し、バリ取りの改善に取り組んでいただけたらという想いが込められている」との答え。
なぜ企業ではなく「バリ取り大学」を名乗っているのか? と聞くと、「自社製品での解決に限らず、バリ取りのどんな疑問も解決する中立的な存在になりたかったから」と服部さん。
ジーベックでは、「バリのことでわからないことがあった時に、いつでも駆け込めるように」と2018(平成30)年6月に、オフィスだった8Fをすべてオープンスペースに。バリに関するカタログの常設だけでなく、定期的にセミナーを開催しています。営業時間は平日の9時から17時まで。入場無料。
以前、イベントは貸し会議室で行っていたそうです。これまでにもさまざまなセミナーやイベントを50回以上開催。この5年間でのべ約1,000人が参加したとのこと。今回の「バリ取りの日」のイベントもこのオープンスペースで開催されています。
『バリ取り』= ものづくりの魂
板橋さんによると、「バリ取り」の目的は、性能低下や動作不良、組み立ての障害となるのを防ぐために行うんだとか。
「具体的には、スマホ・車などの金属製品はすべてバリ取りをしているんですよ。家電やクーラーも」と板橋さん。
「それから、たい焼きについているのもバリです!」と板橋さん。
え、たい焼き?! あー、あの、型からはみ出た・・と松宮(本記事ライター)が言うと、「そう、そう、それです!」と板橋さんは満面の笑み。
ほかには、メスやカテーテルなどの医療部品もバリ取りがされているそう。ちなみに、医療部品は人の体に直接触れるデリケートなもの。そのため、水をふき付けてバリを取る場合もあるとのこと。かなり繊細・・。
バリ取りは、ものづくりにおいてとても大切なこと。そのためジーベックでは、「バリ取りを制するものが、ものづくりを征する」をキャッチコピーにしているそうです。
・・・師匠(板橋さん)! アツい・・・アツすぎる!!!
ところで、もう1人のアツい男・服部さんは入社以来、「バリ取りにすっかりハマってしまった」そう。日常で「バリカタラーメンを食べたい」「バリ島に旅行・・・」など、とにかくすべての「バ・リ」というワードが聞こえると反応してしまうんだとか!
板橋さん&服部さんのお話をうかがい、身の周りのものは思った以上にバリ取りされているんだな・・・と実感。
と、そろそろイベントの時間に。お二人にお礼を言い、再び会場へ!
ついに、『バリ取りの日』イベントスタート!
9時30分になり、いよいよイベントがスタート!
イベントは9時30分から17時30分まで。まさに充実の内容!
まずはオープニングからスタート!
タイムスケジュールの説明に続き、「“業界初”の発表があります」とアナウンス。
・・・なんだろう? と思っていると、「金属加工に携わる3万人!」にアンケートを行い、その結果をイベントで初公開するとのこと。これは聞かなければ!
初公開! 金属加工に携わる3万人の大調査
スタッフの方によると、今回は「バリなきこと(加工した素材にバリがない状態)」に関して調査をしたそうです。
しかしなんと、「バリなきこと」には明確な基準がないと聞き、びっくり!!!
・・・これは危険すぎる。
なぜこんなことが起きるのか。上の例では「車体メーカー」と「部品メーカー」のバリの基準が違うため、「バリの取り直し依頼」が発生してしまうというのです!
と、ここで今回の調査により世界で初めて「バリなきこと」の平均値が「0.048mm」と判明したとアナウンス。これは、業界にとってはエポックメイキングな出来事なんだそう。
興味深かったのは「過去にはあるが、1年以内にない(改善成功層)」の「バリなきこと」は0.029mm。「1年以内にある(課題層)」は0.055mm。「取り直しなし(完璧層)」は0.057mm。だったこと!
つまり、一番基準を厳しく設定したグループが「改善を達成した」という点。これは、バリ取り業界以外でも共通しそうだなと感心しました。
バリ取り大学からの提案は「取引先と交渉して基準を決定しよう」でした(やっぱり!)。
明るい『バリ取り』を目指す企業
続いて、真っ黒に日焼けした健康的な男性が登場!
藤本工業は1964(昭和39)年、静岡県浜松市に創業。本社のほか、同市内と愛知県にも工場があるそうです。ダイカスト(溶かした合金などを高圧で注入し、成型する)製品のバリ取りなどを行っているとのこと。
主要取引先の評価では、なんと「品質のクレーム0件」。100社の中で「QCDS(品質・価格・納期・安全)3年連続1位」という超実力派! 普段、バリ取りを行う人々が外部からの評価を聞くことはないとのこと。そのため藤本さんは、外部からの評価をバリ取りに携わる人に伝えていたところ、みんなの自信や意識がアップしたそうです。
「バリ取りは地道で過酷な作業なため、なかなか人が集まらない」と語る藤本さん。そこで人手不足を解消し、社員の負担を軽減するだけでなく「培った技術を継承する」ためにも、ロボットの導入を決意。
最初は迷いがあったものの、「『やらまいか』という精神で挑んだ」(藤本さん)。ちなみに「やらまいか」とは、遠州弁(浜松など静岡県西部の言葉)で「やってやろうじゃないか・まずやってみよう・チャレンジしてみよう」という遠州スピリットなんだとか!
最初、社員の方の中には「ロボットは100%バリ取りが完璧にできる」「自分の仕事を奪われるのでは」という不安の声もあったそう。しかし、「ロボットはバリ取りを完璧にはできないし、仕事がなくなることはないんです」と藤本さん。
ロボットを導入すると品質は安定し、効率化するものの、やはり「最後は人の目で確認し、仕上げている」とのこと。人とロボットの融合が大切なんだな・・・と納得。
藤本さんは、社員の方の意見を取り入れて環境を改善し、コミュニケーションを取って「明るいバリ取り職場」を目指しているそうです。
最後に「・・・今、こうして話している時もみんなが支えてくれています」と言うと、声を詰まらせる藤本さん。
・・・アツい。「バリ取り業界」は外の気温(35℃)を軽く超えている!
思わず感極まり、もらい泣きしそうになったところで、休憩に。
ライター松宮、『バリ取りコンテスト』に参戦!結果は?
コンテストは、普段バリ取りを経験していない方に「バリ取りの難しさを体験してほしいとの思い」から開催しているとのこと。
ここで「バリ取りコンテスト参加者募集(3名)」のお知らせが!
はさみで紙を切り、指も切ってしまったことが2回あるほど不器用な松宮。だが、やってみたい!
・・・ちょっと恥ずかしいと思いつつも、手を上げて立候補。ほか男性2名と勝負することに。
が、どうやったらよいかまったくわからない・・・。途方に暮れていると、社員の方5~6人ほどがワラワラと松宮の周りに!入れ替わり立ち替わり、ていねいに教えてくれます。
・・・実際にやってみると、アルミはかなりやわらかい! それと、動いているマシンは尖っていないので、指に当たっても痛くありません。超不器用でも安心!
・・・数分後。いよいよ結果発表!
審査員(左から:藤本工業・藤本さん、株式会社スギノマシン・光江豊彰さん、ジーベックテクノロジー・赤尾友和さん)3名(合計30点)で採点されます。
1番の方は15点。2番の方は21点!
そして松宮は・・・
ここで、藤本さんの特別ポイント「一番楽しくバリ取りをしていた人(単に周りに人がいっぱい集まっていた)にプラス3点」が松宮に!
ということで、合計18点。かなりおまけをしてもらい、2位。
なにも知識がなく参加した今回の「バリ取りの日」。スマホや車の部品、医療機器などさまざまな製品が「ひとつひとつ手作業により、バリを取っている」と初めて知りました。
取材以来、テーブルやイス、ペットボトルのふたまで「製品の端」を見ると・・・バリは出てないか? と思わず確認するように。記事を読んだみなさんも「バリ」をチェックしてしまうことでしょう。
「バリを制する者が、ものづくりを征する」 。今後もアツい「バリ取り」業界に注目です!
文:松宮史佳/写真:工場タイムズ編集部
写真提供(一部):ジーベックテクノロジー株式会社、藤本工業株式会社