東京都の最北端に位置し、東京23区内で3番目の面積を誇る足立区。区内に約27,000社あるという事業所のほとんどが中小の製造業で、その歴史とともに発展してきました。
またJR常磐線、東京メトロ千代田・日比谷線、私鉄の東武鉄道が通るターミナル駅である北千住駅を中心に住宅街も拡大しており、駅前は新旧世代の入り交じった活気に満ちています。
その足立区が主催となり2018年3月に開催された「あだちメッセ」は、足立の技術と全国の企業のマッチングを目的に行われる区最大の展示商談会。工場タイムズ編集部として、その魅力をリサーチしてきました。
足立区が誇る金属加工業の実力にまずビックリ!
「あだちメッセ」は、北千住駅に直結の百貨店・マルイ内のイベントスペース「シアター1010」で開催。平日の朝からたくさんの人が駅前に溢れており、エネルギーを感じます。
今回の出展企業は、足立区の中心産業である金属加工業を中心とした58社。2018年2月に取材し、工場タイムズでもご紹介した葛飾区主催の「町工場見本市2018」と比較してみたいと思いながら会場へ向かいました。
まず入り口にドーンと展示されていたのが、メタリックな輝きがカッコいいエレキギター。あだちメッセのウェブサイトにある出展企業紹介ページにも掲載されているこのギターを発見し、のっけからテンションが上がります。
このギターは、足立区の金属加工会社・株式会社オーティーエスが開発したアルミ製のエレキギター「下町エレキJavee(ジャヴィー)」。
社員さんのアイデアで生まれたというこのギターは、なんと30kgのアルミのかたまりを3.5kgにまで削り出してこの形にしているのだそう。持ってみるとたしかに軽い!
アンプから出る音も「金属製だからキンキンとした金属音のような音では?」といった想像とは異なり、とてもやわらかく耳に心地よいのです。
ほとんどの部品が木製である普通のギターならまだしも、この「Javee」は全ての部品が金属製。その音のやわらかさに驚きを隠せません!
社員さんによれば
「弊社の本業は旋盤や板金、レーザー加工といった金属加工業ですが、ある社員が『Javee』の開発を社内で提案したところ承認され、プロジェクトがスタートしました。
通常勤務終了後、メンバーが集まってミーティングを繰り返し、試行錯誤した末、2016年に最初のモデルが完成しました。今回出展の2017年モデルは、それぞれのパーツをさらに数グラムずつ削ることで、以前のモデルより1kgの軽量化に成功しているんです。
その結果、『Javee』はおかげさまで某有名アーティストの方からも高い評価をいただくことができました。現時点ではまだ製品として発売されてはいませんが、今後は通常の楽器としての販売事業を展開していきたいですね」
と、控えめながらも嬉しそうな表情で話してくれました。新しいモノづくりを応援するその社風がとても素敵です。
会場内を歩いていくと、今度はまるでメカゴジラか!というような大きな恐竜の作品に目を奪われました。
こちらは金属プレス部品や特殊シルク印刷を製造するザオー工業株式会社の「ザオーブロック」。金属をプレスしたときに出される端材のパーツで作られたこの作品、なんと部品数は約2800個。ジグゾーパズル並みじゃないですか!!
このブースにはほかにも「ザオーブロック」で作られたバイクやプロペラ機が展示されており、よく見るとパーツ同士をリベット(鋲)で繋いだシンプルな構造であることが分かります。パーツの数もプロペラ機は32個だそうで、これくらいなら初心者でもなんとか組み立てられそうな感じ。
これまでも同社はイベントで子供たち向けの制作ワークショップを展開。現在は受注販売のみだそうですが、将来は製品化もめざしているそうです。
お話をうかがったデザイナーの松崎さんは20代前半ほどのお若い方でしたが、こちらも前述の株式会社オーティーエスの社員さんと同様に、お話中のイキイキとした目が印象的でした。
さらに会場内を歩き回っていると、医療器具の開発販売を手がける三祐医科工業(さんゆういかこうぎょう)株式会社のブースに目が引かれました。ズラリと並べられた金属製医療器具のすぐ横に、私たちの生活で見慣れている製品が。その名はずばり「医療器具屋さんが作った耳かき」。
代表の小林さん曰く、超繊細な匠の手仕事と、医療器具に使われる樹脂を組み合わせた絶妙な“しなり”が特徴のこの耳かきを発売したところ、多くのテレビ番組や新聞記事などで取り上げられ、今では本業をしのぐほどの人気商品になったそうです。
確実な安全性を求められる医療器具を製造する技術があればこそ、この耳かきへの信頼度が増すというもの。これらの商品がすべて手仕事で作られているというのだから恐れ入ります。しかもストラップのついた携帯版や、
太さの異なるさまざまなタイプがあり、お値段も980円〜2,800円とお手頃。お土産に買ってくればよかった…。
足立区が誇る金属加工業のチャレンジングスピリッツに、取材はじめから手応え十分です!
AI(人工知能)や伝統工芸、オリジナル犬具まで。その多彩さにまた驚き!
さてさて次へまいりましょう。
AI(人口知能)関連事業の本格化がもはや常識的になってきた昨今ですが、このイベントでも時代の流れに即したソフトウェア関連の企業が出展していました。
次のブースでは、ソフトバンクが開発し話題を呼んでいる人型ロボット・PEPPER(ペッパー)くんが出迎えてくれました。
PEPPERくんが受付をしている株式会社オレンジアーチでは、このPEPPERくんに組み込むソフトウェアを開発し、導入までをサポートする事業を展開しています。
聞けばすでに実績として空港・小売・メーカーなど約1700社に導入され、各種イベントでの接客や案内に大活躍しているそうです。つぶらな瞳でこちらを見つめるPEPPERくんにちょっと困惑しながらも、AI時代がいよいよ本格化しているのだと実感しました。
次に目に飛び込んできたのは、金属でもITでもなく、ナチュラルで自然な空気があふれるブース。鞄や雑貨の製造を手がける有限会社メニサイドのプロデュースブランド「Shu(シュー)あだちや」が展開する素材「紙布(しふ)」と、それを使った商品が展示されていました。「紙布」はその名の通り、細く裁断した和紙を撚(よ)って和紙糸(わしいと)にし、その糸で織り上げた布のこと。
「紙布」は、西暦1500年代に東北地方をおさめていた戦国大名・伊達政宗(だてまさむね)への献上品として伝わっていた伝統工芸品。
明治維新後は近代の紡績技術におされ次第に廃れていったそうですが、宮城県の紙布作家桜井貞子(さくらいさだこ)さんがご主人との二人三脚で約40年前に復活させました。
その桜井さんと出会った有限会社メニサイドの代表取締役・中里さんは、伝統工芸であり、素材としても素晴らしい特性をもつ「紙布」をもっと広めたいと「Shuあだちや」を立ち上げたのだそうです。
和紙糸は、自然の素材で染められたさまざまな色のバリエーションがあり、また触ってみればとても強度があります。また「紙布」で作られた鞄や袋はデザインもシンプル。細部にこだわったセンスが素晴らしく、ナチュラル志向のお客さんの間で人気になりそう。
実際に都内の有名セレクトショップへの納品実績もあるそうで、「紙布」の認知度がこれから高まっていくのが想像できました。
ここまで見てきただけでも、足立区製造業の懐の深さに十分驚きを隠せないのですが、この他にも魅力的なブースがまだまだありました。
こちらはミユキ精工株式会社が開発した、立方体のカラフルな子供向け知育ブロック「リポブロック」。
ジョイントという部品で自由自在にブロックを組み合わせ、ロボットや動物、恐竜などさまざまな作品の制作が可能。子供向け商品でありながら、その可能性の広がりは大人をも夢中にさせそうです。めざせ日本のレゴ!
さらに足立区は、関東大震災の際に多くの皮革職人さんが浅草から移り住み、それ以来盛んだという皮革製品会社のブースもいくつか出展していました。
その中から“手作り首輪とリードのお店”を運営する株式会社バウワンのブースもチェック。同社はオーダーメイド犬具の制作をメインで手がける会社として、足立区北綾瀬にショップを展開しています。
代表の清水社長にお聞きすると、実は全くの異業種から、好きが高じて5年前に同社を創業。デザインからパターンまですべて独学で習得してきたのだとか。
ショップでは手作り首輪教室も開催していて、愛犬とおそろいの革ブレスなども制作できるとのことなので、興味のある方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
そこに流れていたのはやはり「ものづくりへの情熱」だった
「あだちメッセ」では、これまでご紹介した企業のほかにも、テレビや新聞などで話題となり、工場タイムズでもコラボレーションさせていただいている「あだち工場男子」主催の株式会社しまや出版、また工場タイムズの記事でご紹介している青木金属工業株式会社、アクリル製品を製造する有限会社三幸(ミユキ)なども出展。まだまだご紹介したい会社が尽きない充実した展示会でした。
今回の「あだちメッセ」は2018年2月にレポートした葛飾区主催の「町工場見本市2018」と比べてみると、葛飾区は製造業のブースが大きな割合を占めていたのに比べ、足立区ではシステム開発や印刷出版の会社など、出展企業のバラエティを感じました。こうした展示会でそれぞれの区の特色を分析するのも楽しいものですね。
そして葛飾区と足立区に共通していえるのは「ものづくりへの情熱」。どちらの区の企業も、本当にその仕事に誇りをもち、楽しんでいるように感じました。
工場タイムズは、そんなクラフトマンシップのカッコよさや魅力をこれからもみなさんにレポートしていこうと思います。今後も楽しみにしていてくださいね!
あだちメッセ 公式サイト
http://adachi-messe.jp/
あだちメッセ 公式Facebookページ
https://www.facebook.com/adachimesse1010/
取材・文:柳澤史樹/写真:工場タイムズ編集部