ゴム専門の金型を製造する株式会社石井精工は、昭和34年創立の老舗企業である。
蓄積されたノウハウを活かし産業を支えている石井精工のゴム金型設計の強みに加え、金属加工や業界そのものに興味を持ってもらうために工夫している点を紹介する。
金型業界や金型の種類
まず、金型と聞いて何を想像するだろうか。
文字のとおり、金属でできた型である。金属やプラスチック(樹脂)などの材料を金型に流し込んだり、金型を通過させたりすることで、同じ形の製品を連続して且つ効率的に製造するために用いられる。金型の中にも、プレス用・鍛造用・鋳造用・プラスチック(樹脂)用・ガラス用・ゴム用など種類が多数あり、製品の加工方法によってそれぞれ異なる。
この金型について、石井精工の取締役 石井 洋平さんに話を伺った。
『金型ってゴムのほかにもプラスチック・鋳造だったりプレスだったり色々な金型があるのですが、ゴム専用の金型はとても規模が小さい業界になります。プラスチック(樹脂)は生産額でいうと金型業界全体の3割くらいを占めています。それに比べて、ゴムは3%くらい。それくらいニッチな業界になっています。ただ、ゴムに変わる材料(伸縮性があったり弾力性があったり)が今世の中に無いので、業界は小さいですが、ニッチさを強みに成長しています。』
ゴム金型製造のキーは『溝』
「バリ取り」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。
バリを知らない人に説明すると、バリとは材料を加工する際に発生する無駄な部分のことである。
通常バリというものは、製造される際に少ないほうが良いものと思っていたのだが、ゴム製品の製造は逆だそう。バリを出すことで製品の品質を高めるため、あえてバリを出している。そのため、最後の製品仕上げの際に、このバリ除去を如何に簡単にするかが鍵となってくる。
『ゴム製品を成形するときには必ずバリというものが出ます。プラスチックにはこのバリというものは禁物なんですが、ゴムは逆にこのバリがないと成形不良を起こしてしまうので、バリを出さないと成形ができないというものになります。
そういった理由で、ゴム金型の特徴として「喰い切り」というものがあります。金型の外にある、溝のようなものです。「喰い切り」がないものに関しては、手でちぎろうとしても全然きれいにちぎれないんですね。「喰い切り」があると、スーって手で切れていくんです。』
金型の精度によって、ゴム製品の単価が変わってくるという。
仕上げ性が悪いと、成形後にハサミで仕上げなければいけないなど、追加工程が発生し、その分単価が上がる。金型の品質が良ければ、余分な工程を減らすことができるため、工数削減延いては単価抑制に繋がるのだ。
誰でも簡単に製品を仕上げることができる金型を作れる企業が、重宝されるというわけだ。
もう一点ゴム金型の特徴として、脱型方法がある。
プラスチックや他の材料は伸びないため、型から無理やり外すことができないが、ゴムの場合は伸縮性があるため、型からめくり取ることができる。多少の引っ掛かりなら無理矢理でも脱型できるため、複雑な構造の金型を作ることができるのだ。この点も腕の見せ所で、金型製造企業の中でも判断されるポイントとなる。
金型は1/100mmの世界
金型製造の腕の見せ所についても話を伺った。
『部品加工屋さんと比較されることがよくあるんですけど、部品加工屋さんは、これを作ってくださいって図面を渡されるとその図面通りに加工します。一方で金型屋さんは、この金型を作ってくださいと製品図面を最初にもらい、その製品が出来上がる様に金型の設計をしなければいけないんです。そこが金属加工業という大きなくくりの中でも、金型屋さんはスキルを持っていると言われている部分になります。
その中で、同業社とどう比較されるかというと、さっきお話した仕上げ性のところです。もう一つは、金型の割りっていうんですけど、製品だけを見てどのように構成すれば製品の成形と脱型ができるかということを考えなければいけません。型の枚数が増えるほど設計も簡単になるんですけど、製品に出る型の線(跡)をなるべく増やしたくないとか、ここに線(跡)が出てはいけないとか、制限がかかったときの設計力が企業ごとに全く異なります。
そこに関していえば、弊社の設計力は業界内での強みといえると考えています。 金型製造において、0.01mmを追いかけて日々製造を行っています。』
金属加工や金型製造を知ってもらうために。ものづくりに興味を持ってもらうために。
石井精工はゴム金型製造を行うメーカーだが、筆者が石井精工を知るきっかけとなったのは、石井精工公式Twitterのある投稿だった。
石井精工はTwitterやYouTubeなど公式アカウントを運営しており、ゴム金型製造だけでなく、こういったコラボ企画やたい焼きちゃんや自社ブランド商品のアロマピンズ「ALMA(アルーマ)」なども登場する。
これについても話を伺うと、いたるところに企業努力が散らばっていた。
『アロマピンズを作るキッカケになったのは、金型屋が何を作っているのか正直わからないという点でした。これ何?って聞かれても説明できないものを作っている金型屋さんがある中で、せっかく技術があるのに、働いている人たちが説明できないのがすごく歯がゆいと自分も現場にいたときに感じていました。
それであれば、自分たち発信のものを作りたいと思い、ものづくりに興味ある次世代を担う仲間を集めたいということもあり、一般の人たちに周知できるような商品を作ろうと動き出しました。最初は金属加工かゴムで何か作ろうと話していて、デザイナーさんを探したり動いてたんですけど相手にされず。そんな中で、墨田区の企画でデザイン会社と協業できることになり、スタートしました。
最初はお皿とかありきたりなものから始まったんですけど、価格が市場とあまりにも合わなくて、どんどん小さくなっていきました。最終的にアクセサリーになって、+αでなんだろうと考えたときに香りにたどり着いて、ピンになったというわけです。多くの人に手に取ってもらい、購入して使ってもらうためには、どのような価格帯や売り場が良いかなども色々なことを考えました。』
アロマピンズ「ALMA(アルーマ)」
東京駅のKITTEの中のGOOD DESIGN STOREやECでも取り扱っている。
紆余曲折があり、ゴム金型屋さんがつくるアロマピンズ「ALMA(アルーマ)」が誕生したわけだが、狙い通り良い反響が集まった。
『これきっかけで、働きたい・やってみたいという問い合わせもありましたし、すごく前向きに捉えてもらえるキッカケになりました。
あとは、人材の確保は私たちのような町工場で抱えている課題の1つだと考えていて、その課題解決の一環として、YouTubeチャンネルをやっています。YouTubeの効果もあり、30代40代の即戦力人材を採用できた。このような情報発信も大事かなと思います。
テキストの情報だけではギャップは埋まらないので、動画を見て興味を持ってもらうと、働いている人の顔や雰囲気も見えますし、ギャップが小さくなりますね。良くも悪くも面接応募時にはYouTubeでのフィルターが掛かっている状態になるので、会社と求職者のマッチ度は高まりますよね。今現在も社内で活躍してくれています。』
あなたの身の回りにあるゴム製品は、石井精工にて作られた金型から生まれたものかもしれない。1/100mmの世界を、ゴム製品を通して見て欲しいと思う。
取材先:株式会社石井精工
URL:http://ishiiseikou.com/
制作:工場タイムズ編集部