2022年6月に開催された「日本ものづくりワールド」。
出展企業のひとつ、1962年創業の富士精機株式会社(石川県)は、円筒型の金属部品加工を得意としており、大手建設機械メーカーとの取引に加え、更なるニーズ拡大にも注力している。取締役工場長の前川 要 氏に伺った。
ブッシュとは？
富士精機で主に製造しているのは、円筒形の金属部品「ブッシュ」。建設機械(ショベルカー・ブルドーザーなど)や、産業機械(自動車・家電の組み立てなどに用いられる機械)、工作機械（部品製造に使用される機械）のアーム部分に必ずと言って良いほど使用されており、人間の身体に例えると関節のような役割を担う。
多様な機械に対応できるよう、大きさはもちろん、厚さ、彫られている溝の形状も様々。
年間約50～60万個製造されている。
ブッシュの製造工程
ブッシュの製造には大きく分けて4つの工程がある。
①旋削(せんさく)
金属を削り出す作業。旋盤(せんばん)と呼ばれる機械に金属を固定し、回転させる。
そこに、バイトという専用の刃物を押し付けることで、金属の外周を削ったり、
穴をあけたりできる。主に円柱状の部品を成形する際に用いられる。
また、部品同士の摩擦を軽減するため、富士精機では、部品の外側や内側に溝を彫る。
これにより、溝に潤滑油が入りやすくなり、機械の滑らかな動作を実現できる。
②熱処理
金属部品は熱を加えることで部品自体を強くすることができる。
一方で、熱により部品が変形し、綺麗な丸に歪みが生じてしまうという課題もある。
③研削(けんさく)
砥石で、金属部品を削る作業。ブッシュを設計通りの寸法や形状に仕上げるため、
旋削で出た表面の微細な凹凸や、熱処理で生じた歪みを、砥石で細かく削り整えていく。
ブッシュの品質を左右する重要な工程である。 
④表面処理
部品を錆などの腐食から守るための加工を施す。
富士精機では、これらの工程を、ひとつの工場で一貫して担っており、1つの部品を完成させるのに1ヵ月半かける。材料の手配から、加工・熱処理・表面処理、完成まで、全ての工程を担うことで、良質なブッシュを製造しようという使命感が一層強まる。
他社と比べた強み
ブッシュの品質を測る指標のひとつに「真円度」が挙げられる。これは、いかに部品が綺麗な丸であるのかを示す数値である。ブッシュは、円形部分がわずかに歪んだだけでも、アームの滑らかな動作を妨げてしまうため、ミクロン(1000分の1ミリ)単位で真円度を高める必要がある。
富士精機では、ブッシュの歪みや凹凸を15ミクロン（0.015ミリ）以内に抑えているが、最近では、より精密な機械にも対応できるよう、さらに厳しい8ミクロン（0.008ミリ）以内の領域で製造を行っている。計測と改善を繰り返し、品質向上に努めている。
「ただ金属を削るだけであれば、機械をプログラムすることで加工できる工場もあるかと思いますが、部品の強度を高めるためには熱処理が欠かせません。しかし、熱を加えることで、部品に歪みが生じてしまいます。当社では金属を削り出すところから、部品を強化するための熱処理、完成までの作業を一貫して行っているため、計測結果をもとに、日々ひとつひとつの工程を見直しています。」と話す。
強みの背景
なぜ、ここまで品質の追求にこだわるのか。背景には、石川県を代表する地場産業の存在がある。石川県には、建設機械で国内トップシェアを誇る小松製作所があり、富士精機は、50年以上世界レベルの建設機械メーカーと取引する中で、世界にも通用する技術力を磨いてきた。
「ブッシュには高い精密性が求められる一方で、変形しやすく、製品として出荷できないもの(=ロス)が出やすいことから、製造したがる工場は少ないのではないかと感じています。しかし、石川県で建設機械の製造が盛んだったこともあり、長い年月をかけて、ブッシュに求められる精密性を追及し続けることができました。困難な加工にあえて挑戦したことで、当社には一朝一夕にはいかない技術が蓄積されている自信があります。実際に、ブッシュを削るための工具は、独自に改良を重ねており、今では当社にしかないものとなりました。また、元々は、建設機械のブッシュを手掛けてきましたが、最近では技術力が評価され、車のボディなどをつくるプレス機をはじめ、産業機械用の部品も手掛けられるようになりました。品質を追及し続けたことで当社にしかないノウハウが蓄積され、次の仕事に繋がっているのは自信になりますね。」と前川氏は誇らしげに話す。
より広いニーズに応えるために
長年取引している大口の企業があるのにも関わらず、こうして展示会で出展する理由について
「これまで、同じ部品をただ繰り返しつくるのではなく、“どうしたら世界レベルの品質を実現できるのか”とブッシュに向き合い続けてきました。相手のニーズを汲み取り、ひとつひとつ課題をクリアしたことで、他のものづくりでも活かすことのできる技術が身についてきたと感じています。こうして展示会に出展することで、様々な分野でものづくりを行う企業のみなさんと交流できます。自動車のバンパーを成形する機械を開発している会社との出会いから、射出成形機（プラスチックを金型に流し込んで成形する機械）の部品製造を手掛けられるようになった実績もあるんですよ。また、社内のモチベーション向上にも繋がっていると思います」と話す。
さらに、今後の展開について
「現在も全国のお客様と取引をしていますが、あらゆる機械に必要となるブッシュだからこそ、自社の技術をより多くの人に知っていただき、より広いニーズに応えられる製品をつくっていきたいです」と語った。
妥協のない技術力の追及と挑戦が、モノづくりの可能性をより広げていきそうだ。
取材先：富士精機株式会社
URL：http://www.fs-fujiseiki.jp/index.html
制作：工場タイムズ編集部
