2022年9月に開催された「町工場NOW!」。
展示を行っていたのは、1966年創業の有限会社泉和鉄工所(大阪府貝塚市)。
長年、大手自動車メーカーの部品などの金属加工を行い、ミリ単位で削り出す精巧な技術力は業界内で高い評価を受けていた。そのような中、NUTS(ナッツ)というブランド名でアウトドア製品の開発に新たに挑戦している。そのプロセスや製品の特徴を、代表取締役社長の鳥取隆氏に伺った。大阪人特有のゆかいな語り口調で、終始楽しく話を聞かせてくれた。
NUTSの誕生のきっかけとブランド名の由来
長年、主に自動車の部品を製造してきた中、なぜアウトドア製品を作り始めたのか伺うと、「従業員にキャンプなどアウトドアが好きな子が多くて。キャンプをしている中で、自分たちでも作れるものがたくさんあることに気づいたんです。」と鳥取氏は語った。後に詳しく紹介するが、NUTSは肉を焼くための鉄板、ランタンカバー、アウトドアソースという順で様々な製品を開発している。
NUTSというブランド名については、「一応、『ナチュラル ユニバーサル ツール バイ センワ』とは言っているんですけど、『なんでも うまくいこと つくるで せんわ(Nandemo Umaikoto Tukurude Senwa)』の略です。英語は後付けで、それがあっているかは僕らはわかりません(笑)」と鳥取氏は笑いながら語ってくれた。「なんでもうまいことつくる」というワードに、大阪人のユーモアを感じた。会社自体も、自由や遊び心を大切にしているような印象を抱いた。そこで、会社の雰囲気について詳しく伺った。
泉和鉄工所の自由なものづくりができる環境
「基本的に僕は、現場の子が『何か作りたい』ということに対して止めることはしないです。それでいろいろなものが出来てくる。それを実際に僕がどこかに売りに行って初めて、人気がある・人気がない、自分が思っている以上に売れないなっていうのがわかるから、とにかく作ってくれって言います。だから急に『社長!こんなん作ったんですけど、どうですか?』って言って来るんです」と鳥取氏は熱く語った。
このように、泉和鉄工所には社員が楽しみながら自由な発想でものづくりに励むという社風と環境があるのだ。社長である鳥取氏の雰囲気や熱い言葉から、実際に見学してみなくても、筆者にはその社風がひしひしと伝わってきた。このような環境から生まれた製品を、次の章で紹介していく。
最初に誕生したのは「いいね」がつけられる鉄板
NUTSが最初に製作したのは、バーベキュー用の鉄板「ごくあつ鉄板 FFG」だった。
その特徴は、なんと言ってもお肉などの食材がおいしく焼けることだ。他のメーカーの鉄板は、プレス加工で製作することが多い。これに対して、「ごくあつ鉄板 FFG」は、職人がひとつひとつ削って製作し、6mmという均一な厚みを実現する。その結果、食材に均等に熱が伝わり、おいしく焼けるというわけだ。加えて、6mmという分厚さのため、火を消したときや肉をのせたときに冷めにくいという優れた保温効果もある。
「いいね」のマークについては、SNSの「いいね」から着想を得たそうだ。焼いたものに「いいね」をつけて、無言で「いいね」をちょうだいとアピールできるという、ユーモアのある発想である。
インスタ映え間違いなし!ランタンカバー
Goal ZeroというメーカーさんのLEDランタン「Lighthouse Micro FLASH」専用のカバーである。このランタンがSNSでとても流行っているそうで、これをいかにしてインスタ映えさせる商品を作るかと考えたのが誕生のきっかけ。よくあるカバーはレザー製だったが、加工屋ということからアルミと真鍮で製作した。
さらにインスタ映えを追求して誕生したのが、透明アクリルを使用したBRIESTA(ブリエスタ)という製品だ。
光の入り方の角度を見て何度も試作しながら、美しく見える形状を追求した。一つの棒を切削してこの形状にするのだが、これはかなりの職人技がないと実現できないそうで、一つを製作するのに40分ほどかかるそうだ。この職人技が、繊細で美しく「映える」形状を可能にしている。展示会場は明るかったので、ぜひ真っ暗な場所でもさらに輝く様子を見てみたいと筆者は感じた。
まさか食品まで!?アウトドアソース
筆者は一瞬目を疑った。金属加工屋さんがなぜソースを作っているのか、驚きを隠せなかった。鳥取氏も「バカでしょ?」と豪快に笑いながら紹介してくれた。
従業員から「社長!スパイス作りたいです!」という提案があり、鳥取氏は「スパイスはいろんなメーカーから出ていて同じ土俵にあがっても勝てない。だからソースを作ろう」と答えたそう。食品という異業種の製品を作りたいと言っても、迷わずにやろうと答える鳥取氏の懐の大きさを感じた。
地元のメーカーさんと共同で開発したそうで、こだわったのは「にんにく抜き」。国産玉ねぎと醤油がメインになっている。お肉はもちろん、シーフード、焼きそば、チャーハン、ハンバーグ、薄めるとドレッシングにも。キャンプに持っていくと、万能に活躍が期待できる商品だそうだ。
ちなみに、ソースのスペルは本来なら「sauce」だが、NUTSのソースは「源」などの意味がある「source」にあえてしている。わざとこれを使うことで、うちが最初だという意味を込めたそうだ。このネーミングセンスにも遊び心を感じた。
これからのNUTS
NUTSの未来について伺った。
「世の中にまだないもの、楽しんでもらえるものを作りたい。他にも、「いいね」の鉄板のように、やっぱりみんなが笑顔になるようなものを作りたい。(販売販路などは)今までないような攻め方を考えています。」と鳥取氏は語った。
NUTSが大切にしている「楽しい」の原点には、鳥取氏のものづくりに対する想いがあった。鳥取氏は元々大手自動車メーカーのディーラーに勤務していた。お客様第一で大変なことが多かったが、それでも「つくること」が好きで楽しかったそうだ。そこで、自分の会社でも同じように若い従業員にも好きなものを楽しんで作ってもらうようにしたのだ。
鳥取氏のスタンスは、売りに行くなどのプロデュースをしたり責任を取ることはするが、それ以外は100%現場に任せて作ってもらうことだそうだ。製造の現場に自由に作ってもらうことで、これまでにない発想の製品である、鉄板、ランタンカバー、アウトドアソースが誕生したのである。これからのNUTSも、ユーモアがあり、みんなが思わず笑顔になれるような製品を作っていくことであろう。
取材先:有限会社泉和鉄工所
URL:http://www.senwa-corp.jp/
制作:工場タイムズ編集部