2022年6月開催の「日本ものづくりワールド」。
出展企業の一つであるアロー産業株式会社は、放熱基板や特殊基板の設計開発、製造を行ってきた企業だ。展示されている製品の特徴や企業として目指す所について、担当者に話をうかがった。
特殊基板で企業のニーズに応える
昭和54(1979)年に設立されたアロー産業株式会社。鳥取県鳥取市に本社を構え、各種プリント基板(以下、基板と言う)の設計開発から製造、実装までを一気通貫で行っている。
まずはアロー産業株式会社のブースの展示品をご説明いただいた。
基板の熱劣化を防ぐ「放熱基板」
まず紹介していただいたのは、銅板をベースにした「放熱」に特化した基板だ。
「銅バンプ基板」とは熱経路を短縮することで、放熱性を向上させ、熱による部品の劣化・破損を防ぐことができる製品だ。 エッチング技術を使って表面加工したメタル素材の上に、さらにガラスエポキシ基板を張り合わせることで、基板の下へ熱を逃がす構造となっている。
この製品は機器のハイパワー化が進む昨今、基板の熱問題の解決策として重宝されている。しかし、このような特殊な基板を製造しているメーカーは多くはない。
専門性が高い特殊な基板を作っているアロー産業株式会社。製造業界のニッチなニーズにも対応できる「開発・製造力」の秘訣は、一体何なのだろうか。
国内生産だからできる「ソリューション力」
長年、日本の製造業は生産拠点を海外に移し、産業の空洞化を進めてきた。しかし、アロー産業株式会社は生産工場を国内に置き、基板の開発・製造を続けている。
「我々は困っているお客様の、目の前の課題や要望に応じて部品を作っているんです。どちらかと言えば、ニッチなマーケットに食い込んでいこうということですね。」と担当者は語る。
国内で基板の研究・開発から製造までを一気通貫で行なっているからこそ、的確に要望に応えることができるというわけだ。
ニッチな製品で製造現場の問題解決を導く
「ハイブリッド基板」はその一例だ。
例えば、基板の上にプラスチック製のコネクターをつけるとしよう。そうすると、基板上に露出しているプラスチック製のコネクターが紫外線により劣化してしまうという問題が出てきてしまう。
そこで考えられたのが、銅ベース基板とガラスエポキシ基板を組み合わせ、部分的にスルーホールを形成する形状だ。これにより、基板の裏面にコネクターを付けられるため、劣化の心配がなくなる。
基板を持ってみると、薄いけれど意外にずっしりとした重みがある。この一枚に沢山の技術が詰まっていることを実感した。
「高放熱水冷流路基板」も、顧客の要望に応えて作られた製品のひとつだ。
一般的には、メタル基板をヒートシンク(放熱器・放熱板)の上に付けるが、基板とヒートシンクとの間に熱が溜まってしまうという問題があった。そこで、この製品は基板とヒートシンクを張り合わせ、より効果的な放熱機能を実現している。
この基板は、展示されている中では最もサイズが大きい製品だ。他の基板に比べると厚みもあるが、ヒートシンクを別付けすることなく、一枚で効率よく放熱できるという点が魅力だ。
大手にはできない仕事を
問題はこのような基板を小ロットで製造する場合、基板の単価が上がってしまうことだ。大量生産品とは異なるため、おそらく手間もかかることだろう。
しかし、そこまでしても「欲しい」という顧客がいる。そんな大手メーカーでは対応できない問題も、企画段階から取り組み形にしてきた。
中には解決が難しく断ってしまった案件もあるが、それに対しても方法を探るべく、研究を続けているそうだ。
紫外線劣化を防ぐ「UV高反射レジスト基板」の研究
そんなアロー産業株式会社が、鳥取県の産業技術センターと共同で開発、改良を進めているのが「UV高反射レジスト基板」だ。
基板上に塗布されている「レジスト(保護膜)」は、紫外線に当たると黄変し、劣化が進んでしまう。それを防ぐため、紫外線を反射する塗料を開発して基板に応用するという研究を行っている。
一般的なレジストの紫外線反射率は10〜20%程度だが、このUV高反射レジスト基板であれば、現段階で80%まで反射させることができる。
しかし、日本でこの基板の開発をしている企業は数社しかない。決して大きな市場ではないが、技術としてはかなりの需要があるそうだ。
研究を始めて約10年ほど。「普通なら諦めかけているけど、まだ続けようと思っています。ここまで来たら早く完成させたいですね。」と前向きだ。
この技術を待っている企業がいる。その期待に応えたいという情熱を改めて感じた。
長年の技術と実績で目の前の要望に応える
インタビューの最後に、どんな工程を経てこのような基板が作られているのかを伺った。
「電子レンジのようなものに入れてボタンを押して…という簡単なものではないんです。様々な科学的な技術を使って、20数工程ほどを経るので、中々説明するのは難しいですね。」
それほどまでに、数多くの工程を経て完成する基板。
製造だけではなく、企画開発から自社で行うとなれば、苦労も相当のものだろう。顧客の細やかなニーズに応えることができるのは、長年培われてきた技術と実績の賜物だ。アロー産業株式会社の基板は、これからも製造業の現場を支えていく。
取材先:アロー産業株式会社
URL:https://arrow-sg.co.jp/
制作:工場タイムズ編集部