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へら絞り

へら絞りの特徴とは? プレス加工との違いとメリット・デメリット

2019/04/12公開 / 2023/09/26更新

金属製品は「プレス加工」や「曲げ加工」などいくつもの加工方法があります。「押す」「曲げる」などして金属を加工して製品にしていきますが、この加工方法の1つに「へら絞り」というものがあります。金属をへらで押しながら成形して加工する方法で、プレス加工と似ている方法でもあります。この記事では「へら絞り」にどのような特徴があるのか、どのような製品で使われる加工方法なのかを中心に解説していきます。

へら絞りとは

金属は「伸ばす」「押す」「切断する」などの工程で製品の形を作っていきます。このなかで金属を伸ばして加工する方法が「へら絞り」です。

へら絞りの仕組み

「へら」と呼ばれる棒状の道具を使い、旋盤のような機械に金属を取り付け、回転する金属にへらを押しあてて変形させながら製品を目的の形にしていきます。へらを「てこの原理」で金属に押しあてれば、硬い材料の金属でも変形させることができます。金属を回転させながら加工するので「スピニング加工」とも呼ばれます。

へら絞りは、回転させた金属を押して絞りながら変形させていくので、お椀のような半円の製品を作ることが可能です。直径数mmから4m位まで、また最大では300mmぐらいまで絞れるので、パラボラアンテナのように浅く絞った製品から、ミルクポットのような深く絞った製品まで加工できます。

絞り方にしても、中心部のみ変形させることや、全体を絞って変形させることもできます。手動で加工する場合、小さい直径の金属なら1人で、大きな直径の金属だと数人で分担しながらへらを使って絞ります。

へら絞りの特徴とは

へら絞りの特徴として、以下の点が挙げられます。

・金型1つで金属加工できる
・板加工の1つで製品の軽量化、コスト削減を実現
・加工表面はなめらかで均一
・深絞りや大型製品にも対応
・小ロットから大量生産まで対応できる
・他の加工方法と組み合わせ複雑に製造可能

へら絞り加工の技術を使って作られる主なものは、調理器具や産業用部品、研究用部品、車、バイク部品、パラボラアンテナ、シンバルなど。多種多様な製品の製造が可能です。

そもそもへら絞り加工の歴史は古く、中世ヨーロッパ時代から始まりました。昔は手動、つまり人の手でへらを操作して加工することがメインで、少しの力加減で金属が大きく変形するため目的の形にするには力加減を調節しながら加工する必要がありました。熟練の技術が求められていたのですね。

現在は、旋盤やマシニングなどの機械加工道具の発達によって、自動絞り機も登場しています。

プレス加工との違い

プレス加工も、金属を押して変形させていきます。へら絞りと似ていますが、プレス加工では「オス型」と「メス型」の2つの金型を必要とするのに対し、へら絞りはオス型1つで加工できるという違いがあります。

また、プレス加工は製品1つに対して専用の金型が必要ですが、へら絞りは簡単な金型が1つあれば様々な形状の加工が行えます。よってプレス加工に比べれば、へら絞りならコストを10分の1程度まで抑えることができます。

しかし、へら絞りは何百何千と作るような大量生産には向いていません。特に手動でのへら絞りは加工する職人の技術によって出来映えが変わり、製品の精度の差が大きく異なります。同じ職人が複数の金属をへら絞りするにしても、すべての製品を同じ精度に仕上げるのは難しいでしょう。

その点、プレス加工は金型さえ作れば大量生産品でも精度良く作ることができます。フライパンや鍋など1つの製品を大量生産する場合はプレス加工、シンバルやパラボラアンテナのような少量の品の生産ではへら絞りが向いているといえます。

へら絞りのメリット・デメリット

へら絞りのメリット

初期投資が安く短納期

プレス加工はオス型とメス型という、金属をプレスするための上下の金型が必要です。そのため、どのような製品を作る場合でも初期投資が高くなります。また2つの金型がはまるように精密に作る必要があるため、設計から金型製作、金型組み立て、プレス加工まで必要となり、短くても10日程度の納期がかかるのです。

へら絞りの場合、金型がシンプルでオス型のみで金属加工ができます。そのため初期投資が安く、納期は複雑な形状でも1週間程度です。簡単な形状であれば、その日のうちに加工品を作り上げることも可能です。

加工製品はバリが出ず強度が高い

へら絞りは金属を切断する加工を行わないためバリが発生しない加工方法です。なので、加工後に「バリ取り」をする必要がありません。また、金属をへらで絞って丸みをつけるため、加工後には強度が上がります。金属によっては焼き入れしてから加工しますが、焼き入れが不要のときもあるのです。

バリが出ず、ツールマーク(加工痕)が付きにくい加工方法であるへら絞り。製品によっては磨く必要も塗装の必要もなく、へら絞りさえすれば完成です。またへら絞りのツールマークを「模様」としてデザインの一部に取り入れている製品もあります。

木型が使える

プレス加工では木型は圧力に耐えられないために、型としては適していません。へら絞りの場合はへらを金属に押し当てるので、プレス加工ほどの圧力は必要とせず、木型も使うことができます。そのため金属の型よりも安くなり製造コストを下げることができるのです。また、木型は加工がしやすいので型ができるまでの期間が短く、納期短縮にも繋がりますよ。

へら絞りのデメリット

大量生産には向かない

へら絞りで加工するときは、金属の円盤板を機械にセットします。手動でも自動でも1回ずつセットしないとならないため、大量生産にはあまり向かない加工方法です。

また1つ1つの製品は職人の熟練度によって精度が左右されます。その点からいっても、大量生産で同じ物を作るような加工には向いていません。自動へら絞りにしてもへらで絞って金属を加工するので、プレス加工に比べると時間がかかります。大量生産で短納期を必要とする製品であれば、へら絞りよりもプレス加工が向いているでしょう。

へら絞りが用いられる主な製品

へら絞りでは、アルミ、鉄、ステンレス、真鍮、さらにチタンやモリブデンなど硬い金属などの金属までも製品に加工することができます。製品の形状も、お椀のような半円形の製品や筒型、楕円形など、多岐に渡ります。

調理器具

タンブラーや中華鍋、フライパンなどはそれほど深い絞りは必要としないため、へら絞りの得意分野といえるでしょう。調理器具であれば素材は主に鉄やアルミの金属を製造・加工することになります。へら絞りで加工した後は、取っ手などを溶接して取り付ける製品もあります。

建築金物

建築金物としては、植木鉢やカバー、フィルター、シェードなど様々です。建築金物は複雑な形状の製品が多いのですが、「両端を絞る」「真ん中だけ絞る」「先端を球形にする」など多くの形状に対応できるへら絞りでの加工が可能です。

産業用部品

スプロールやホッパー、プーリーなど、機械加工マシンの部品もへら絞りで作ることが可能です。また、パラボラアンテナや新幹線の先端部分、ロケットの先端部分などの大型製品もへら加工で作られています。新幹線やロケットの部品を作るためには、へら絞りはなくてはならない技術となっています。

優れた製品をつくる「へら絞り」

はるか昔から使われてきた加工技術であるへら絞りですが、現在は機械での自動化が進んでいます。機械の機能や職人の技術がどんどん上がっているため、厚さや品質、精度が安定していなかった製品も、へら絞りで年々加工ができるようになっています。

また、へら絞りなら製品の強度を高くすることができる上に軽量化も可能なため、品質面でとても優れた製品が完成するのです。へら絞りは技術を身につければかなりの強みになる金属加工技術のひとつだといえるでしょう。

制作:工場タイムズ編集部

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