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世界を魅了する日本製VRとは? VR最前線! 成人向けコンテンツからはじまるテクノロジーの普及と未来 〜前編〜

2018/11/28公開 / 2023/06/19更新

近年、VRと呼ばれるテクノロジーが注目を集めている。VRとは「バーチャル・リアリティ(仮想現実)」の略語で、頭に装着したHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を介して、実写やCGアニメーションで作られた仮想現実の世界に入り込んだような体験が出来るものだ。特にゲームや360°動画などで、臨場感あふれる映像が楽しめる。

ソフト不足のVR業界。それを打破する存在とは…

VR元年と呼ばれる2016年より、VR市場は着実に成長を続けている

VR専門のニュースメディア『VR通信』の担当、宮本琢也さんはこう語る。

「VRの市場は活況を極めています。『Oculus Rift(オキュラス・リフト)』『HTC Vive(エイチティーシー・バイブ)』『Gear VR』『PlayStation VR(PSVR)』『Oculus Go(オキュラス・ゴー)』などのHMDが次々とリリースされ、遊園地やカラオケなどのアミューズメント施設、医療、教育、フィットネスなど様々な分野でそのテクノロジーが導入されはじめています。IT専門調査会社のIDC Japanの調査によると、2018年の世界のVR/AR(拡張現実)の市場規模は270億ドルにも及ぶといわれています」

だが、その技術も魅力的なソフトがなければ宝の持ち腐れとなってしまう。事実、我が国のVR業界ではソフト面の開発が遅れており、「一般に知られているVRの人気作は何か?」と聞かれてもタイトルがパッと思い浮かばないのが現状だ。

そんな中、密かに、そして着実に広がりを見せているVRのジャンルがある。それが、いわゆる「成人向け」の実写VR作品だ。

独自の発展を遂げている日本の市場

『VR通信』の宮本さんはこう語る。

「世界のVR市場ではゲーム・コンテンツが拡大の一途を辿っていますが、日本では実写の成人向けVRの普及が進んでいます。本格的にリリースされはじめたのは2016年。当初はあくまで試験的なリリースでしたが、予想を上回る収益を記録したコンテンツがいくつか誕生しました。そうした市場のニーズを反映した結果、現在では毎月150本以上の作品がリリースされています。大手配信サイトの『FANZA(ファンザ)』(旧・DMM.R18)には、累計5000本以上のVR対応コンテンツがラインナップされています」

配信サイト『FANZA』のVR動画PRサイトより。すでに700万本のコンテンツが売れているという

この市況は、どうやら日本独特のものらしい。

「海外にも実写の成人向けVR市場は存在していますが、これだけの作品がリリースされているという話は聞いたことがありません。また、映像のクオリティの高さ、ディレクターの演出力、女優陣の演技力の高さ、ジャンルが多岐にわたっているのも日本の特色です。そんな市場を評して、VRの大手企業オキュラス社(現在はフェイスブック傘下)の創業者であり、VRエヴァンジェリストであるパルマー・ラッキー氏は、2017年に『日本はVRに理解がある。この国にラボを作りたい』と語ったほどです」(VR通信 宮本さん)

産業界では「最新のテクノロジーは成人向けコンテンツをきっかけに流行する」という言葉がまことしやかに唱えられている。特に日本ではその傾向が強い。

1980年代にアナログビデオデッキのVHSが普及したのは、電気店が成人向けビデオを抱き合わせで販売をしていたからだ、という証言が数多く存在している。1996年にはVHSに替わる次世代メディアとしてDVDプレイヤーが市販されたが、それに呼応するように世界初の成人向けDVDソフト『桃艶かぐや姫・危機一髪 小室友里』(芳友メディアプロデュース/1996年)がリリースされた。PCも同様だ。90年初期のDOS/DOS-Vフォーマット、後のWindowsフォーマットなどのPCに青年層が惹きつけられたのは、『同級生』(エルフ/1992年)、『Kanon』(Key/1999年)などの成人向け美少女ゲームのカルチャーが根付いていたことも、要因のひとつだといわれている。

どうやら、それと同じセオリーがVRの世界にも当てはまっているようなのだ。

ツーリストたちを魅了する日本製VR

では、日本の成人向けVR中身とは一体どんなものなのだろう?
それを確認するために、東京・秋葉原にある『SODVR DVD個室鑑賞はじめましたソフト・オン・デマンド』へ向かった。同店は2016年12月オープンの、ビデオボックスで成人向けVRを手軽に楽しむことが出来る施設である。

秋葉原にある『SODVR』。ソフト・オン・デマンド代表取締役社長の野本ダイトリ氏が、自ら広告塔になっている

店長の渡辺さんは語る。

「一般の人がVRを楽しむには様々なハードルがあります。まずHMDを購入しなければならなりません。HMDにはPC接続型、スマホ接続型、スタンドアローン型(単体利用可能)の3種がありますが、どれを選ぶかで迷ってしまう方も多いと思います。ちなみにHMDを装着してしまうと周囲に誰がいるか目視できないという欠点があります。家族と一緒に暮らしている方からは『バレるのが怖い』という意見も聞きます。しかし、当店のような完全個室型のビデオボックスであれば、その心配はありません」

VRのヘッドマウントディスプレイ。このゴーグルをかけると目前に仮想現実世界が広がる

同店には1日に約250名ほどの来客があり、すぐに予約でいっぱいになってしまうという。

「利用されているのは20〜40代の方が多いですね。観光地化しているところもありまして、台湾、中国、韓国からの旅行者の方もよくお見えになります。海外の方は団体で来られることが多いので勝手にツアーのルートに組み込まれているようです。そのため中国語、韓国語、英語のマニュアルも作成したほどです」(SODVR店長 渡辺さん)

外国人観光客向けのマニュアルは、大変わかりやすくユーザーに好評だという

海外の人々も魅了する日本製成人向けVRを実際に視聴してみた。頭にHMDを装着し、ヘッドフォンを装着。店長の指示に従い、再生ボタンをクリックする。すると目前に衝撃の映像が流れはじめた。

モデルが飛び出す、驚異の3D立体映像

レンズを通して映し出されたのは、通常の平面的な映像とはまったく異なる、奥行き感のあるリアルな世界。そこへ女性のモデルが登場。彼女の姿は目の前で立体的に浮かび上がって見える。さらに46歳の筆者に対して「お兄ちゃん……」と耳元でささやきながら、言葉巧みに誘惑してくる。この時点で筆者は完全に映像の世界に没入していた。

約2帖ほどのスペース。男性1人でもゆったりと過ごせる空間だ

レンズの中の彼女は、距離が近い。あまりにも近い。現実の世界でも誰かに目前まで近寄られると威圧感のようなものを感じるが、それとまったく同じ感覚が襲う。また、耳元のささやきは吐息までもが忠実に再現されていた。その相乗効果なのだろうか、照れくさい気持ちになり、鼓動が高鳴る。額には薄っすらと妙な汗すらかいてきた。しかも、これは成人向け映像である。その後、どんなシーンが繰り広げられたかは読者のご想像にお任せしたい。

実は筆者は、2015年の段階で試験的にVRの撮影を行っていた経験がある。筆者が在籍していたチームには映画監督らが参画しており、必然的に「役者の演技をリアルに撮影し、視聴者との境界線をなくす」ということがテーマになっていた。しかし、当時のVRのカメラや技術は風景撮影用が主で、役者の動きをリアルに撮れるカメラは存在していなかった。そのため、志半ばでプロジェクトは頓挫してしまったのだが、まさか自分たちが目指していたことに近いものが、成人向けVRの世界で実現しているとは思いもよらなかった。

VRを視聴中。ゴーグル内では、モニター映像と同様の迫力のあるシーンが映し出されている

いや、それだけではない。我が国の成人向けVRの世界では、独創的な作品が多数出現しているというのだ。前出の『VR通信』の宮本さんが解説してくれた。

「日本の成人向けVRはフェティシズムを満たすような斬新な作品も多数存在しています。たとえば服の中に潜り込む作品だったり、道路の横にある側溝の中からスカートの中を覗く、更衣室のロッカーに入ってしまう、といった作品です。女性同性愛者の視点で女性と行為を行う、というなりきり物も登場してきています。日本の成人向けVRの業界では、こういった極端なコンテンツまで製作しているのです」

多数の成人向けコンテンツが並ぶSODVR店内。迷宮に迷い込んだ感覚にさえなる

では、実際に成人向けVRはどのように作られているのだろうか。どのような現場で、どのように撮影が行われているのだろうか。そこで筆者は製作に携わる製作スタッフや女優に取材を試みることにした。

そこに待ち構えていたのは、通常の映像制作とは異なる技術とセンスが要求される、とんでもなくイノベーティブな現場だったーーー。

VR専用のカメラ。その正体は後編に明かされるのでお楽しみに!

続き(後編)を読む

尾谷幸憲(おたに・ゆきのり)

1971年生まれ。ライター/エディター。インタビューやコラムの他、グラビアのプロデュースを手がける。著書に小説『LOVE※』『ラブリバ♂⇔♀』『J-POPリパック白書』『ヤリチン専門学校』。リア・ディゾン1st写真集『Petite Amie』構成担当。現在、『東京スポーツ』『ヤング・ギター』等でコラムを連載中。座右の銘は「健康・オア・ダイ」。

取材・文・撮影/尾谷幸憲(おたに・ゆきのり)

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