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鉄彫刻家・飯田誠二さんが作り出す『鉄を楽しむ心地よい空間』

2018/04/27公開 / 2024/05/30更新

あなたは「鉄」という素材からどんな言葉をイメージされますか? おそらく「硬い」とか「重い」とか「冷たい」という方が多いのではないでしょうか。 飯田誠二(いいだせいじ)さんは、そんなイメージのある鉄を自在に操り作品を生み出す「鉄彫刻家」。飯田さんの溶接や加工技術で生み出される独特な世界観は、作品に触れた人たちから「曲線や音、デザインや質感に至るまで、鉄で出来ているとは思えない」という驚きの声を得ています。

そんな飯田さんが2018年5月5日(土・こどもの日)から13日(日)までの9日間、家庭用溶接機のブランド「SUZUKID(スズキッド)」アンテナショップである中目黒のDIY溶接ショップ/教室「FeNEEDS(フェニーズ)」とのコラボ個展「IRON ART EXHIBITION by Seiji Iida」を開催します。 今回は鉄彫刻家・飯田さんと、個展会場である「FeNEEDS(フェニーズ)中目黒店」のスタッフ・桑原康介(くわばらこうすけ)さんに、「鉄」の魅力、作品への思いや開催にいたるまでのストーリーなどをうかがいました。

鉄でできていることを感じさせない、優しく柔らかい独自の世界観

今回出展されるのは、飯田さんの頭の中で生まれた架空の生き物「LUUMOS(ルーモス)」や、自身の名前「Seiji」をモチーフにした、揺らしたり、動かしたりすると音が鳴る作品「sei(セイ)」シリーズなど、バラエティに富んだ作品が20点ほど。

飯田さんが生み出した架空の生き物「LUUMOS」。左が「LUU(ルー)」、右が「MOS(モス)」の兄弟だそう

揺らした時に鳴る美しい音色に桑原さんが衝撃を受けたという「sei」。ぜひ個展で体感してみてください

「DARUMA(ダルマ)」。揺らすと、愛嬌あるルックスからは想像できないような透んだ音を奏でる

そのほか、燻製料理の第一人者としてメディア出演多数の人気シェフ・輿水治比古(こしみずはるひこ)さんに気に入られ、彼のお店で使われるようになった音の出る食器「AMENBO skip!」や「suzumushi」なども展示のラインナップに加わっているそうです。動画で素晴らしい音色を体感してみてください。

飯田さんが今回出展する作品は、手を触れてはいけない絵画とは違い、すべて手にとって手触りや作り出す音を楽しめるというのが魅力。

優しく柔らかい曲線で構成され、心が癒やされるような美しい音色を奏でる作品たちは、本当に全てが鉄で作られているの?と思わず疑ってしまうほど。

飯田さんが作品を生み出す工房(神奈川県川崎市)に鎮座する鉄の涅槃(ねはん)仏。全長約5メートルの大きな作品

「自分にとっての溶接は紙の工作と同じなんです。紙を切って貼り付けて好きなものを作る感じかな。最初は飲食店の装飾オブジェなどを頼まれていたんですが、自分の作品といえるものが欲しくなり、20年ほど前からコツコツと作り続けてきました」

神奈川県川崎市で1946年創業の温水ボイラー製作所「有限会社飯田工務店」の3代目として生まれた飯田さん。

13歳の頃から家業の溶接業を手伝ってきた飯田さんは、専門学校を卒業後そのまま家業を継ぎ、失敗が決して許されない難度の高い溶接を日々の仕事としています。

そんな飯田さんのアーティストとしての活動は、友人と開催した阪神淡路大震災のチャリティで募金用の貯金箱を制作したのがはじまり。

その後、DIY商品の販売を手がける東急ハンズ主催の「ハンズ大賞」で入選し、各地の東急ハンズ店舗で作品が展示された経験を通じてアーティストとしての喜びを感じ、自信につながったそうです。

さらにその後、飯田さんをアーティストとして大きく飛躍させる転機が、1人のある人物との出会いによって訪れます。その出会いについてお聞きしました。

『哲学とはなんだ?』を教えてくれた巨匠との出会い

鉄彫刻家・飯田誠二(いいだせいじ)さん

「私が作品を作り始めた2000年頃、音響彫刻家の原田和男さんという方に出会いました。たまたま彼は私の家の近所に住んでいて、家の軒先に置かれた巨大な“鉄のハエ”のオブジェを見つけた私が『誰が作ったんですか?』と直接呼び鈴を押して訪ねたのがはじまりです。彼はすでに当時から、その名の通り『音の出る鉄作品』の第一人者として多くの制作実績をもつ著名な芸術家でした。

原田さんと出会った頃の私は、物事の本質を理解していない生意気な若造でした。でも原田さんとお付き合いするようになって、彼の豊富な知識や技術の高さに驚き、自分が持っていた固定概念を覆されました。たとえば私が作品を見せれば、『このレベルなら俺は大学の頃に終わってた』というように、ケチョンケチョンにされましたね(笑)。

けれど原田さんは、そんな知識も技術もない当時の私に根気よく向き合ってくれ、いろいろなことを教えてくれました。それだけでなく、

たとえば彼が受けた汐留の屋外彫刻の仕事で「土台と作品を垂直に溶接する」という難しい作業や、横須賀美術館で開催された『庭』がテーマの彼の個展で、中庭に私の作品を展示させてくれるといったすごいチャンスをくれたのです。

それらの体験を通じて私は、のちに私の作品コンセプトとなった『音』や『空間』の概念を学びました。

私は横須賀美術館に出展させてもらうまで音の出る作品を作ってはいましたが、『LUUMOS』のように制約がなく自由な発想から生み出される造形作品をメインに制作していたんです。今思えば、当時の私に原田さんへの遠慮があったのかもしれません。

師との出会い、思い出を語る飯田さん

しかし個展のあと、『sei』のように装飾的なものを極力取り去った、音を追及する作品をもっと積極的に制作してみたいと話したところ『なんで今までやらなかったの!?どんどんやりなさい!』と応援してくれただけではなく、『一緒にやろう!』と、まるで友人のような言葉をかけてくれました。とても嬉しかったですね。

ほかにも原田さんから学んだことに“哲学”があります。ある日のこと、原田さんの家に行くと、ずっと座って動かない原田さんから突然『飯田くん、哲学についてどう思う?』と質問されました。そこで私が『何も思いあたりません』と答えると、『そうだ、それが哲学だ』というようなエピソードもあったり(笑)。

原田さんは私が最も尊敬している師であり、かつ心を開いて語り合える友人ですが、そんな彼に少しでも近づけたらと思っています」

アート以外のことも含め、1人の人間として向き合ってくれた原田さんとの出会いから、飯田さんは作品制作における「深み」を学んできたのですね。原田さんから学び、今回の個展で最もこだわっている「空間」がどう表現されるのか、今から楽しみです。

続いて「FeNEEDS(フェニーズ)中目黒店」の桑原さんにお話をうかがいました。桑原さんは、神奈川県・茅ヶ崎で開催されたアンティーク家具屋のイベントで飯田さんの作品に出会い、惚れ込んだ末に今回の企画を提案したのだそうです。

『溶接業界を盛り上げたい』という思いが個展を実現させた

FeNEEDS中目黒店のスタッフ・桑原康介(くわばらこうすけ)さん

「FeNEEDS」は、全国のホームセンターなどで取り扱われている老舗の小型溶接機メーカー「スター電器製造株式会社」のメインブランド、「SUZUKID(スズキッド)」のアンテナショップ。鎌倉店に次ぐ2店舗目である中目黒店のスタッフとして昨年採用された桑原さんは、どのような経緯で今回の個展を企画したのでしょうか。

「モノづくりがもともと好きで、友人だった現在の店長に『中目黒店のオープンを一緒にやらないか』と誘われ、この会社に入りました。オープン後、女性や小学生でもご参加いただける溶接ワークショップを開催しながら、この場所のギャラリーとしての活用を考えており、出展してくれるアーティストを探していた時に飯田さんと出会いました。

イベント前は作品『sei』の写真だけを見て『あ、これくらいのシンプルな溶接なら俺にもできるかも』とか思っていたんですが(笑)、実物に触れ、今まで想像したこともなかった美しい音色を聴いて衝撃を受けました。と同時に、『この人が一緒にやってくれたら絶対(溶接業界が)盛り上がるでしょ!』と確信したんです。そして飯田さんに『ぜひコラボさせてください』とお願いし、今回の個展が決まりました」

まるでカフェのようにオシャレな外観の「FeNEEDS中目黒店」

2人が初めて出会った時、「最初は桑原さんが、作品の構造や溶接方法などを盗みにきたスパイじゃないかと思った」と飯田さん(笑)

インタビュー中も冗談を飛ばし合う、昔からの友人のような2人。そんな2人が出会い意気投合して決まった今回の個展ですが、そこには「鉄に親しんでもらう人を増やして溶接業界を盛り上げたい」という共通の思いがあったそうです。

『SUZUKID』の家庭用溶接機。その中でもこちらは家庭用100V電源で使用できる半自動溶接機『Arcury 80 LunaⅡ(アーキュリーエイティルナツー)』

鉄をたたく木槌などの工具や、何種類もの溶接機が綺麗に整頓された工房

「この個展で、“鉄の素材としての可能性”を感じてほしいです。鉄や溶接って一見ハードルが高く感じるのですが、加工には特別、免許がいるわけでもないんです。家庭で使う椅子やシェルフ(棚)も予想以上に簡単にできることに、ワークショップに参加された皆さんが驚かれます。しかもコストは木よりずっと安く、金額にして半分ほどで済みます。

でも一般的にそういうことは知られていないし、そもそも鉄を扱うという発想が皆さんにないのは、私たちのPRがまだまだ足りていないからだと思います。なので、今回のような機会にもっと鉄を楽しんでもらいたいんです。個展期間中、当店では椅子やシェルフが作れる溶接のワークショップを受付していますので、ぜひ参加して楽しんでいただきたいですね(注:マンツーマンなので個別に予約が必要です)。

そして高齢化や人手不足で悩んでいる溶接業界で、私たちの試みによって多くの人が溶接にチャレンジしてみようという機会につながり、業界全体を盛り上げることができたら、という思いが飯田さんとともにはじめからありました」

と桑原さん。

店内にあるこのカウンターもSUZUKIDの家庭用溶接機で作ったそう。驚き!

店内では、他の鉄作家さんの作品なども販売。期間中は飯田さんの作品も購入可能

飯田さんも、

「以前から自分にあったのは創作意欲だけで『溶接業界を盛り上げたい』なんていう意識は持ってなかったんです。でも今回桑原さんに声をかけていただいて、溶接の楽しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと思うようになりました。

このお店のワークショップで溶接を体験したいという女性も多いそうですが、手先の器用な女性に溶接はとても向いていると私も思いますし、とにかく鉄は柔らかくて加工しやすくいろいろな作品を作れるので、ぜひチャレンジしてほしいです」

見て、触って、聴いて。この鉄の空間を自由に楽しんでほしい

2人の話を聞いている途中で、「鉄は木より柔らかい」という言葉が出てきました。筆者も最初は「?」だったのですが、桑原さん曰く「”鉄は固い粘土”という言葉がピッタリくる」とおっしゃるように、私たちの予想以上に鉄は素材としての自由度が高いということが分かってきました。

たしかに飯田さんをはじめ、他の方の作品などを見た上でお話を聴いていると、なんだか自分でもできそうな気分になってくるから不思議です。

溶接、奥が深くて面白そうですよね!ちなみに筆者は小物よりも家で使うような、味のあるテーブルを作ってみたくなりました。

気がつけばインタビューもあっという間に2時間が経過

最後に一言ずつ、今回の個展に向けて桑原さんと飯田さんにメッセージをお聞きしました。

「鉄の溶接や加工の制作過程の楽しさを感じに遊びに来てください。また当初僕が『そこまで各作品の配置にこだわるのか』とビックリした、飯田さんの作品によって作り出される『空間』も感じに来てほしいです」

と桑原さん。

そして飯田さんは

「個展の開催日を5月5日の子供の日にしたのには、お子さんに鉄の作品に親しみ、楽しんでもらいたいという理由もありました。作品を手に取って、触って、音を聴いてもらう体験が、そのお子さんが大人になった時に思い出の1日になってくれたらすごく嬉しいです。展覧会じゃないので、気楽に遊びに来てくださいね」

と語ってくれました。

「LUU(ルー)」と飯田さん

そうか、鉄って固いとか重いとか冷たいものじゃなくて、楽しいものなんだ、と筆者も感じた今回の取材。

飯田さんと桑原さんが協力して生み出した「鉄を楽しむ心地良い空間」、皆さんもぜひ体感しに行ってみてください。

なお工場タイムズでは、5月に行われる個展の様子もレポート予定!来月お届けしますので、どうぞお楽しみに!

→ 続編記事「鉄や溶接を身近に! 中目黒『FeNEEDS(フェニーズ)』にて行われた、鉄彫刻家・飯田誠二さんの個展&溶接ワークショップレポート」を読む

「IRON ART EXHIBITION by Seiji Iida」概要
【開催期間】2018年5月5日(土)〜5月13日(日)※8日(火)は定休日
【会場】FeNEEDS中目黒店(東京都目黒区上目黒2-43-18)
【営業時間】平日11:00〜20:00 土日10:00〜19:00
【入場料】無料
【Facebookイベントページ】https://www.facebook.com/events/216474209085936/
※飯田さんは5月5日(土)、6日(日)、9日(水)、12日(土)、13日(日)に会場にいらっしゃる予定です(都合により変更の可能性あり)。

飯田誠二instagram
https://www.instagram.com/seijiiida/
FeNEEDS中目黒店
https://feneeds-nakameguro.shopinfo.jp/pages/816037/profile/
SUZUKID オフィシャルサイト
http://www.suzukid.co.jp/

取材・文:柳澤史樹/写真:飯田誠二(有限会社飯田工務店)、工場タイムズ編集部/取材協力:飯田誠二(有限会社飯田工務店)、スター電器製造株式会社

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