日常生活の中でよく使われる「磁石(じしゃく)」。自宅の冷蔵庫に磁石(マグネット)を使ってメモや写真、レシピ表などを貼っている人がいるのではないでしょうか?また、子どもの頃、磁石に砂鉄をくっつけて遊んだことがある人もいると思います。
ところで、そもそも磁石って、なぜくっつくのかご存じですか? 今回は、磁石の仕組みや磁石のつくり方、意外な磁石の活用例などについてご紹介します。
くっついたり離れたり。磁石の仕組みとは?
磁石には、「永久磁石」と「電磁石」の2種類があります。磁石としての性質を持っていて、「N極」と「S極」があり、鉄を引き付けるもの永久磁石といいます。一方、電流が流れているときだけ磁石としての性質を持つものを電磁石といいます。磁石には磁力があり、N極とS極を近づけると磁力が引き付け合ってくっつきます。
逆に、同じN極同士、S極同士を近づけると、磁力が反発し合って離れようとします。磁石は、紙やガラス、プラスチックを引き付けませんが、鉄は引き付けます。なぜなら、鉄自体は磁石の性質を持たないものの、磁石をくっつけたときだけ、鉄が磁石の性質を持つからです。このときの鉄は磁石状態になっているので、ほかの鉄をくっつけることもできます。
大きな永久磁石を非常に細かく砕いて原子ほどの小ささにしても、磁力がなくなることはありません。また、N極とS極に分けて切っても、「N極だけの磁石」「S極だけの磁石」ができることはなく、1つの磁石には必ずN極とS極の両極ができるようになっています。
磁石の中央には「原子核」という部分があり、原子核の周りを粒状の「電子」が回転しています。電子が原子核の周囲を回転することによって、磁力が生み出されているのです。磁石は初めから磁力を持っているわけではなく、磁力を入れて初めて磁石が出来上がります。このことを「着磁」と呼びます。反対に、磁力を弱めることを「脱磁」といいます。
磁石のつくり方
次に、磁石が工場でどのようにつくられているかを紹介します。磁石を利用することはあっても、磁石のつくり方まで詳しく知っている人は少ないかもしれませんね。まず、鉱山で「鉱石」という磁石のもとになる石を採取し、工場に運んで精製した上で、ホウ素や鉄などを調合します。このとき、磁石の中でも強力な「ネオジム磁石」をつくる場合は、ネオジムという金属元素も入れます。
調合した材料を溶鉱炉で溶かし、合金をつくったら、目に見えないくらいの小さな粒になるまで粉砕します。次に、その粉末を、磁気力の効いた金型の中に入れて成型します。この作業は、磁石のN極・S極の方向を一定に揃えるための大切な工程です。成型後には「焼結炉」と呼ばれる炉で焼き固めます。「焼結」とは焼き固めることです。しっかり焼き固めると密度が濃く、高品質の磁石ができます。
それらの工程を終えた磁石を研磨して余分な箇所を削り、大きさなどを整えたら、表面のコーティング加工を行います。この状態ではまだ磁石に磁力がないため、着磁を行います。磁気の検査を行い、合格したら完成です。
ここにも!身の回りにある磁石の活用例
最後に、身近な磁石の活用例を紹介します。磁石というと、理科の実験で使用した「U字型磁石」を思い出す人や、冷蔵庫などに貼るマグネットが一般的です。しかし、磁石はもっといろいろなところで使われています。
たとえば、家庭で使われている電子レンジや冷蔵庫などの家電製品の多くに、磁石の力が使われています。家電製品に内蔵されているモーターから出るエネルギーは、電磁石と永久磁石の力によって出る電気エネルギーが動力となっているのです。携帯電話の通話に使われるスピーカーや、携帯電話を振動させるバイブレーターにも、磁石の力が使われています。
自動車に搭載されているモーターにも、燃費や安全性を良くする目的で、1台あたり数十個の磁石が使われています。高級車になると、1台につき100個近くに上ります。ほかにも車のワイパーやカーナビ、オーディオ類などに磁石が使われています。磁石は車の機能になくてはならない存在になっています。
そのほか、開発中のリニアモーターカーも磁石の原理が活用されています。簡単にいうと、車両に「超電動磁石」と呼ばれる磁石が設置されていて、そこへ電流を流すことでN極とS極が反発し、車両を動かすという仕組みです。リニアモーターカーの営業運転開始は2027年の予定です。
私たちの生活を支える磁石の力
「磁石のことを考えたのは、小学生のとき以来」という人もいたかもしれません。確かに磁石は地味な存在ですが、鉄にくっつくだけでなく、家電製品から自動車まで私たちの生活に大きく貢献しています。いろいろな種類の磁石が研究開発されており、約10年後にリニアモーターカーが開業すれば、より一層磁石の機能が注目されることでしょう。磁石に興味のある人は、身の回りのどこに活用されているかを調べてみてはいかがでしょうか?
制作:工場タイムズ編集部