有機溶剤は、それを使用する仕事に従事していない方にとっては馴染みがないものかもしれません。
しかしながら、さまざまな製品の製造や塗装、接着などにおいて有機溶剤は欠かすことができず、それを扱うための国家資格なども存在します。
ここではこの有機溶剤に関し、その特徴や種類、危険性、資格などについて解説していきたいと思います。
有機溶剤の特徴
有機溶剤とは、さまざまなものを溶かす性質を持つ有機化合物の総称であり、多種多様な分野で使用されています。
有機溶剤が活用されるシーンとして特に多いのが、さまざまな製品・工業品の製造です。特に医薬品、農薬、化学繊維、ゴム、香料、甘味料などの製造においては有機溶剤を使用することが多く、不可欠な存在となっています。
一方で有機溶剤には印刷や塗装にも使用されることも多いのです。特に看板の作成や、自動車、建築、家屋などの塗装においては有機溶剤が幅広く使用されるため、この点においても不可欠な存在となっています。有機溶剤にはつや出しや防水加工にも適しているという特質もあるため、家の外壁や屋根の塗装などでは幅広く活用されます。
これら以外にも有機溶剤は接着や油汚れなどの洗浄・クリーニング、さらには有機溶剤そのものを製造する際にも使用されるため、その用途は多種多様に存在するといえます。
有機溶剤の種類
単に有機溶剤といっても、それに該当する物質は数多く存在し、各々で特徴や適している使用方法も異なります。続いては、有機溶剤の種類を有機溶剤中毒予防規則に基づいて危険度別にカテゴリー化された第一種、第二種、第三種の3種類に分け、それぞれに該当する主な物質もいくつか挙げてご紹介します。
第一種
第一種に該当する有機溶剤は、数多く存在する有機溶剤の中でも特に危険度が高いものであり、具体的な物質としては、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロルエチレン、二硫化炭素などが挙げられます。
第二種
第二種に該当する有機溶剤は最も多く、具体的な物質としては、アセトン、酢酸メチル、エチレングリコールモノエチルエーテル、クロルベンゼン、酢酸ノルマル-ブチル、トルエンなど、さまざまなものが挙げられます。
第三種
第三種に該当する有機溶剤は、数多く存在する有機溶剤の中では危険度は低いとされますが、それでもその取り扱いには十分な注意が必要です。具体的な物質としては、ガソリン、石油ナフサ、石油ベンジン、石油エーテル、テレビン油などが挙げられます。
また、有機溶剤にはこの3種類に該当せず、危険度が極めて高い特別有機溶剤に分類されているものもあるため、その取り扱いに際しては特に注意が必要です。
有機溶剤中毒の危険性
上述したとおり、有機溶剤に該当する物質の中には危険度が極めて高いものも数多く含まれるため、その取り扱いにおいては細心の注意が必要です。
有機溶剤を使用した製品の製造や印刷、塗装、クリーニングなどの各作業には、物を溶かすという共通点がありますが、この際に有毒な気体が発生してしまうことがあります。正しい方法で作業を行った場合、この気体を吸い込んでしまうことによる中毒は防ぐことができますが、換気などを十分に行っていないと中毒を引き起こす危険性は十分にあるため、特に屋内で有機溶剤を使用した作業を行う場合は細心の注意が必要となります。
また、有機溶剤はそれ自体が液体ではあるものの、常温で蒸発しやすいという特徴もあることから、作業に使用していなくても知らないうちに有毒な期待が発生し、中毒を引き起こすというケースもあります。そのため、有機溶剤は密閉された容器を使用し、正しい方法で保管する必要もあります。
有機溶剤を原因とする中毒の症状は上述した物質ごとの危険度によって異なりますが、めまいや頭痛、吐き気などを引き起こすことが多く、それらの症状が表れ始めたらすぐに作業を中止し、換気を行うようにしましょう。また、症状がひどくなる一方である場合は、早急に病院へ行き診察を受けてください。
有機溶剤作業責任者
以上のように、有機溶剤はさまざまな用途で活用できるという利点がある一方、その種類によっては中毒を引き起こす危険性もはらんでいることから、利用に際しては十分な注意が必要です。そのため、労働安全衛生法では「有機溶剤作業責任者」という資格を定義しています。
有機溶剤作業責任者の資格は国家資格のひとつであり、所有者には有機溶剤を使用した作業現場における指揮や監督を行うことが認められています。また、有機溶剤を使用した業務を行っている事業所では、現場において必ず有機溶剤作業責任者の資格所有者を1名配置しなければならないため、この資格は製造業界への就職や転職などにおいて有利になるだけでなく、会社によっては資格を所有しているだけで別途手当を支給してもらえるというケースも存在します。
有機溶剤作業責任者の資格を取得するためには、まず全国で開催されている技能講習へ参加する必要があります。この講習は2日間にわたって行われ、有機溶剤の取り扱いに関する幅広い知識を得ることができます。また、講習の2日目には試験が行われ、ここで60%以上の正解率を記録することができると資格取得となります。試験の内容は講習をしっかりと受けていれば正解できるものとなっていますが、確実に合格したいのであれば、受講前に市販のテキストなどを使用して予習をしておくのもおすすめです。
また、これら一連の技能講習と試験を受けるためには受講料、受験料、教材費などが必要となります。具体的な金額は講習および試験を行う団体によって異なるため事前に確認する必要がありますが、約1万円強と考えておくとよいでしょう。
正しい知識で安全に仕事を進めよう!
ここではさまざまな製品の製造から塗装、印刷、クリーニングに至るまで多種多様に活用方法がある有機溶剤に関し、その特徴や種類、危険性、資格などについて解説しました。
有機溶剤は利便性が非常に高い一方で、その種類によっては危険性も高く、正しい方法で取り扱わなければなりません。そのため、仕事などにおいてより安全に利用するためには、正しい知識を得るために有機溶剤作業責任者の資格取得を目指してみるのもおすすめです。
制作:工場タイムズ編集部