スプーン、フォーク、軽量カップ、鍋、流し台など私たちは多くのステンレス製品に囲まれて暮らしています。それほどステンレスは生活に密着した、身近な金属なのです。
いつまでもさびずに美しく、清潔なステンレス。そこにはどんな秘密が隠されているのでしょうか?
今回はステンレスの正体と、その製造工程のお話です。
ステンレスって?
ステンレス、またの名をステンレス鋼。英語では「Stainless Steel」(ステンレス・スチール)と書きます。つまり、ステン(さび)、レス(ない)、スチール(鉄)という意味の名前を持つほど、「さびにくい鋼」なのです。さびにくい理由は、クロムという金属によって表面につくられた薄い保護膜。この膜は傷ついても酸素や水があれば再生されるので、さびついて傷つくことを防ぎ、いつまでも美しく保つことができるのです。
ステンレスは、成分の50%以上が鉄で、50%以下がそれ以外の合金でできています。鉄が50%を切ると、ステンレスではなく単に「合金」と呼ばれます。
ほかには耐熱性や強度、メンテナンスのしやすさも長所です。ステンレスへのダメージが大きい過酷な環境下でも活躍したり、加工のしやすさも重要なポイントです。また、100%リサイクル可能な材料として、環境面からも注目されています。ステンレスの生産量はこの50年間で、30倍以上も増加しており、用途は食卓から宇宙開発まで広範囲に拡大しています。
そのほか、こんな用途に使われています「建築」材料としては屋根、内外装、 「家電・精密機器」としては洗濯機ドラム、オーブンレンジ、食器洗い機、炊飯器、冷蔵庫、携帯電話関連機器など私たちに馴染みの深い製品によく使われています。 「厨房・家庭用機器」としてもキッチン、浴槽 、「自動車」では排気系部品、モール、ブレーキ部品、その他には鉄道車両や船などにも使われます。
ほかの金属とどう違うの?
次はステンレスとほかの金属を比較してみます。それぞれに個性があります。
ステンレスとアルミニウムの違い
見た目でいうと、アルミニウムはステンレスより少しマット(光沢がない)で優しい印象。重さはアルミニウムのほうが軽く、アルミニウムはステンレスの約3分の1ほどの重量です。アルミニウムは一円玉やビール缶のほか、輸送機器や建築物などの材料としても多く使用されています。また、アルミニウムは指紋が付きにくいという特徴もあります。
ステンレスと鉄の違い
ステンレスと鉄の違いの前に、「鋼(スチール)」と「鉄(アイアン)」の説明から。そもそもは、製鉄会社が鉄鉱石から鉄の成分を取り出すのですが、純度100%の「鉄」は脆くて使いものになりません。その鉄に炭素を加えて合金にしたのが「鋼」です。それを私たちは大まかに「鉄」と呼んでいるのです。ステンレスは鉄とクロムの合金です。「鉄(鋼)」の特徴は強度が強いこと。しかし、さびにくいステンレスとは違い、鉄は時間がたつと酸化してさびてしまいます。
三大金属の見分け方
私たちの日常でよく触れる三大金属は鋼(鉄)、ステンレス、アルミです。簡単な見分け方は、まず「磁石にくっ付くかどうか」。くっ付けば鉄(鋼)。くっ付かなければ、ステンレスかアルミです。そして「重さ」。同じ大きさであれば、アルミが断然軽量です。
ステンレスの種類
家庭用・産業用を含め、メーカーが独自に開発した鋼種を含めると、ステンレスは200種類を超えます。それを金属の組織から分類すると「オーステナイト系」「フェライト系」「マルテンサイト系」「析出硬化(せきしゅつこうか)系」「二相系(オーステナイトとフェライトの中間)」と、5つに分けることができます。
オーステナイト系
通称「サージカルステンレス」は、数あるステンレスの中でも特にさびにくく、傷つきにくいことからアクセサリーによく用いられます。さらに金属アレルギーの原因と言われるイオンが溶け出しにくいため、金属アレルギーを起こしにくいのもポイントです。「サージカル」は英語で「Surgical」、意味は「外科の」です。一般的に医療機器(メス、ハサミなど)に使用されるなど、信頼性の高い素材です。
フェライト系
フェライト系は熱処理を行っても硬くならず、また磁石にくっ付くのが特徴です。代表格は「18クロムステンレス」と呼ばれる鋼種。溶接しやすく、自動車の外装などに使われます。
マルテンサイト系
最大の特徴は、熱処理によって強度や硬さをさらに上げることができる点です。また、すべての状態で磁性(磁石につきやすいこと)があります。代表的な鋼種は「13クロムステンレス」。刃物、工具、ノズル、ブレーキディスクなどに使われます。
析出硬化系
オーステナイト系のように加工しやすく、マルテンサイト系のように強度が高いのが特徴です。バネなどに使われます。
私たちの生活を幅広く支えるステンレス
ステンレスは「さびにくさ」と「丈夫さ」を兼ね備えているので、身の回りの品から工業製品まで幅広く使われ、私たちの暮らしになくてはならない存在です。今度何か商品を買うとき、「これはステンレスかな?アルミかな?それとも鉄?」などと考えてみるのも面白いかもしれません。ステンレス製ならきっと、いつまでも長く使える一品になるでしょう。
制作:工場タイムズ編集部