「工業地帯」とは、多数の工場が一定の地域内に集中的に存在し、そこだけ工業生産の割合が高くなっているところを言います。
工業地帯は通常、広大な平野の中で、幹線道路や鉄道・海岸などに沿って帯状に広がっています。工業地帯については、小学校や中学校のときに社会科の教科書で読んだ記憶がある人もいるのではないでしょうか?
近年、教科書に載っていた工業地帯とは別に、新たな工業地帯が話題になっています。今回は、日本の製造業をこれからリードする役割が期待されている「新四大工業地帯」の話題を中心にご紹介します。
製造業を支えた四大工業地帯
まずは、昔から日本の製造業に貢献してきた、従来の「四大工業地帯」と呼ばれる地域についてお伝えします。
京浜工業地帯
京浜工業地帯という名称は、東京の「京」と、横浜の「浜」を取って名づけられました。主に機械工業や印刷業の比率の高さが特徴です。交通の便が良いという利点を活かし、東京を中心に発達した工業地帯で、巨大な積み出し港が東京・横浜・川崎の3カ所にあります。
中京工業地帯
中京工業地帯といえば、愛知県にあるトヨタ自動車の工場や、三重県四日市市の石油化学コンビナートなどが知られています。名古屋市を中心とした愛知県東部から三重県北東部にかけて広がっている工業地帯で、もともとは織物や紡績、陶磁器などの生産が盛んでした。第二次世界大戦後、自動車や石油化学関係の産業が発達し、現在では従業員数、製造品出荷額とも四大工業地帯の中で最大となっています。
阪神工業地帯
阪神工業地帯という名称は、大阪の「阪」と神戸の「神」が由来です。大阪と神戸を中心として栄え、機械や金属、鉄鋼、石油化学などを中心に発達してきました。近年では京都府や滋賀県の内陸部、和歌山県などにも工業地帯が広がっています。
北九州工業地帯
1901年に北九州市に八幡製鉄所がつくられ、その後は鉄鋼業を中心に発達しました。しかし、他の工業地帯の発展により生産量が少なくなり衰退したため、現在では四大工業地帯ではなく、北九州工業地帯を除いた「三大工業地帯」と呼ばれることが多くなっています。
日本の南関東地方から北九州地方にかけて工場が連続して立ち並ぶことから、それらの地帯は「太平洋ベルト」と呼ばれています。この太平洋ベルトで、国内の工業生産額の約3分の2を占めます。
新四大工業地帯が熱い!
四大工業地帯に代わる新たな工業地帯の台頭が話題になっています。経済誌『日経ビジネス』はその工業地帯を「新四大工業地帯」と提唱しました。それはどこでしょうか?
北関東
北関東の中でも茨城県の工場の立地面積は全国1位で、自動車、食品、建設機械などの大規模工場が立ち並んでいます。群馬県や栃木県も、2011年の北関東自動車道開通で茨城県とつながり、工場が建設・増設されて「北関東横断工場ロード」ができました。京浜、中京、阪神工業地帯から実例を学んで生かしたことが、北関東の工業地帯の発展につながっています。
東北
トヨタ自動車が宮城県に工場を設立したことをきっかけに、工業団地内の道路が拡張され、インターチェンジも整備されました。特に仙台市から車で30分ほどのところに位置する大衡村(おおひらむら)はインフラの拡充が進んでおり、「東北第2トヨタ市」と呼ぶ声もあります。さらに自動車関連以外の企業も進出し始めており、産業集積地へと変化しつつあります。
中国・北陸
中国から北陸地方にかけては自然災害が少ないことが評価され、世界レベルで高いシェアを誇る企業の工場が立ち並んでいます。それらは「グローバルニッチトップベルト」と呼ばれています。医療器具メーカーのテルモは、震災時に操業が停止することで大きなリスクが生じることを避けるため、地震の少ない山口市に工場を新設しました。石川県金沢市や能美市などでも、世界シェアの高い工場が立ち並んでいます。
北九州
従来の四大工業地帯からは外れてしまった北九州も、再び工場が集まる地帯となりつつあります。韓国や中国などアジアに近い立地条件を活かし、自動車工場や部品工場などが立ち並ぶ「アジア一体工業地帯」となっています。日産自動車九州では、日本と韓国両方を走行できるトレーラーを用意し、積み替えのない部品輸送を行っています。
世界にはどんな工業地帯があるの?
工業地帯は日本特有の現象ではありません。世界にも工業地帯はあります。最後は、世界の代表的な工業地帯をご紹介します。
ルール工業地帯(ドイツ)
ドイツにあるルール工業地帯は、鉄鋼・化学・機械工業を中心に、ドイツ国内最大の工業地域として知られています。第二次世界大戦前のドイツが再軍備し強大な軍事力をつくり上げた背景には、ルール工業地帯の発展がありました。
五大湖沿岸工業地帯・太平洋岸工業地帯(アメリカ)
アメリカにある五大湖沿岸工業地帯は一大工業地域として知られ、鉄鋼石が豊富な山地や油田などがあり、自動車産業で知られるデトロイトやシカゴなどの工業都市が発展しています。同じくアメリカの太平洋岸工業地帯は、ボーイング社などの航空産業で知られるシアトルやロサンゼルス、さらにサンフランシスコからサンノゼに広がるIT系のシリコンバレーがあります。
京仁(けいじん)工業地帯(韓国)
京仁工業地帯は、首都ソウル市から韓国を代表する港湾都市の仁川(いんちょん)市まで連なる韓国最大の工業地帯です。広大な敷地を持ち、機械、繊維、食品などの工場が立ち並んでいます。ソウル市内の九老洞(きゅうろうどう)にある輸出工業団地には、電子機器や縫製加工品など主要な輸出品の生産工場が集まっています。
工業地帯の発展が、日本の製造業を元気にする!
工業地帯といっても、もはや中京工業地帯や京浜工業地帯、阪神工業地帯だけではありません。近年は、北関東をはじめ、「新四大工業地帯」と呼ばれる新たな工業地帯が台頭し始めています。これも日本のモノづくり、製造業が元気な証拠と言えます。工業地帯にはそれぞれ自動車や電子機器、建設などいろいろな仕事があり、期間工などの募集も行われています。また、寮などの宿泊施設が用意されているところも多いので、遠方から働きに来ることもできます。工業地帯での仕事に興味がある人は、ネットなどでどんな仕事、職種があるのか、一度調べてみてはどうでしょうか?
制作:工場タイムズ編集部