テレビのCMなどで「インバータエアコン」「インバータ冷蔵庫」と言っているのを聞いたことがありますか?
CM以外では、家電量販店で「インバータ」という文字を見たことのある人がいるかもしれません。しかし、CM中に詳しい説明がされるわけではないので、「何となくすごい機能なんだろうな」くらいしか知らない人もたくさんいると思います。 このインバータ、一体どういう機能なのでしょうか?
今回は、インバータの概要や仕組みなど、インバータに関する基礎知識をご紹介します。
インバータとは?インバータの役割、ないとどうなるの?
まず、インバータとは何かについて説明します。家電・産業用機械の両面で、大切な役割をインバータが果たしています。主な役割は、大きく分けて2つです。
役割①:電気を直流から交流に変える
インバータをひと言で言うと、「直流を交流に変換するための電源回路・装置」のことです。工場にしても家庭にしても、電源は一般的に交流で、電圧と周波数は一定になっています。この状態では周波数や電圧を変えにくく使いづらいので、交流をいったん直流に変換(コンバータ=下記参照)した後、再び直流を交流に変えて、周波数と電圧を調節しています。この「直流→交流」の役目を果たしているのがインバータです。
たとえるなら、水の入ったタンク。左右に栓がついていて、左を開けたときには直流、右を開けたときには交流になるとします。どちらの栓を開けるかを選ぶだけで直流・交流を変えることができ、開ける栓を変えることで反対向きに流すこともできます。インバータの理屈もこれと同じです。直流・交流を自在に切り替え、使いやすくするための装置と考えると良いでしょう。
役割②:モーターの回転数を変える
もうひとつの役割は、モーターの回転数を変えることです。タンクのたとえを続けると、それは水の量にあたります。栓を徐々にひねっていくことで、だんだん水の出る勢いを良くしていくことができます。この機能は、エアコンの温度変更・蛍光灯の明るさの調整などに使われています。産業用機械では、工場のマシン制御に使われます。インバータがなければ、急にマシンが稼働して、商品を壊してしまうかもしれません。
インバータを使用した家電や製品
インバータは様々な製品に使われていますが、用途に合わせて少し異なる働き方をしており、電圧と周波数の違いによって次の3つに分けることができます。
VVVF
Variable Voltage Variable Frequencyの略で、可変電圧可変周波数の意味を持ちます。電圧と周波数の両方を変化させて、モーターの回転速度を調整する目的で使われる種類です。
モーターは本来、周波数の変化だけで回転数をコントロールすることが可能ですが、周波数の変化の中で大量の電流がモーターに流れてしまうと焼けてしまうため、電圧と一緒に変える必要があります。
VVVFインバータは、一般家庭にあるエアコンや冷蔵庫などから産業用モーターまで、幅広く使われています。
CVVF
CVVFインバータはConstant Voltage Variable Frequencyの略で、定電圧可変周波数の意味です。周波数のみを変化させるインバータで、モーターのない製品で明るさや熱を調節したい場合に使用されます。
身近な製品では、蛍光灯やIHのコンロや炊飯器などにCVVFインバータが使われており、周波数の変化を利用することで、蛍光灯の明るさ調節やIH調理器の温度設定が可能となっています。
CVCF
Constant Voltage Constant Frequencyの略で、定電圧低周波数インバータといわれるCVCFは、電圧と周波数を一定に保つ働きをします。供給された一定の交流電流から、安定した一定の交流電流にする役割なので、前出の2つに比べて用途が分かりにくいインバータですが、コンピューターなどの電源装置には欠かせない存在です。
商用電源の周波数が変化した時や、停電時に電圧低下の恐れが起きた場合、安定した電力が不可欠なコンピューターなどの情報機器にとって、致命的な状況となります。そうした場合でもCVCFを搭載することで、安定性を保って交流電流を供給し続けることができ、瞬発的な悪影響を回避することができます。
インバータ家電のメリットとは?
次に、インバータを使用するメリットと課題についてお伝えします。
インバータを使用するメリット
大きなメリットは省エネ効果です。エアコンにしても蛍光灯にしても、直流のままではエネルギーを無駄に消費してしまいます。しかし、インバータを導入することでエネルギーを効率良く使うことができます。インバータがあれば稼働状況をコントロールできるので、いちいちフルパワーにしなくても、ゆっくりと家電のスイッチを入れ、エネルギー量を調節しながら少しずつ動かすことができます。その分、エネルギーの無駄遣いを抑えられるというわけです。モーターの回転数を10%減らすと、使用エネルギーを最大70%まで抑えることができます。
インバータの課題
問題点もあります。ノイズが発生することです。ノイズが発生すると電流の波形をゆがませ、テレビや炊飯器など他の家電製品に悪影響を及ぼすおそれがあります。そのため、インバータ本体をケースで覆ったり専用のフィルターを使用するなどの対策が取られています。また、インバータが付いていないほうの家電製品の電源にフィルターをつけ、ノイズをブロックすることもあります。
インバータとコンバータの違いとは?
インバータと同じように電気の直流・交流を変換する機械に「コンバータ」があります。最後は、インバータとコンバータの違いについて説明します。
コンバータとは?
上でも触れたように、インバータが直流を交流に変換するのに対して、コンバータは交流を直流に変換します。産業用機械では、コンバータ部とインバータ部を組み合わせて使用するのが一般的です。直流・交流を巧みに切り替え、最適な電気利用と機械制御を実現しています。機械や電子機器はデリケートなので、電圧・周波数を常にコントロールしなければなりません。瞬間的な停電や変動があるだけでも誤作動が起きるおそれがあります。
家電も同じです。「インバータエアコン」の中にもインバータだけでなくコンバータも搭載されています。つまり、直流と交流を適宜コントロールし、機械を効率良く動かすための役割を果たしているのが、インバータ・コンバータなのです。
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こんな時はご注意を!インバータが故障する原因と予兆、寿命について
一般的に、インバータの寿命は10年程度とされています。使用状況などによって劣化のスピードは変わってきますが、目安として10年ほどは耐えられるように設計されているようです。
インバータが不具合を起こす原因には、熱や過電流など様々な要素があります。経年劣化によって過度な発熱などを引き起こすと、インバータの保護機能である「トリップ」という現象が生じるようになります。
トリップとは、インバータの不具合を感知した時に、モーターなどへの電力供給が止められることをいいます。例えば、インバータは冷却用のファンなどの働きで、稼働時に出た内部の熱を逃がしていますが、そうした冷却用部品の故障でオーバーヒートを起こすと、インバータが停止します。
こうしたトリップを引き起こす前には、製品の動作がガタつくようになったり、異音を立てたりする初期症状が出る場合があります。以前とは違う、何らかの症状が出てきた場合には、完全に故障する前に点検をしてもらうことをおすすめします。
現代の家電になくてはならないインバータ
インバータが家電製品に導入されるようになったことで、エアコンは細かい温度調節ができるようになり、蛍光灯やランプも同じように明るさの微妙な調節ができるようになりました。火を使わずに調理ができるIHクッキングヒーターが誕生したのも、インバータのおかげです。このように、私たちが快適な暮らしを送る上ではインバータは欠かせないものとなっています。
現在のエアコンはほぼ100%がインバータエアコンです。自宅のエアコンなど家電製品を買い替えるとき、家電量販店のスタッフに「説明書に載っているインバータって何ですか?」と聞いてみると、インバータに関する興味深い話が聞けるかもしれませんよ。
制作:工場タイムズ編集部