工場などにおける製品の製造からDIYに至るまで、ナットやボルトを締める機会は数多く存在します。その際に使用するスパナとレンチの違いがよく分からないという方は多いかもしれません。 しかし、なんとなく同じようなものというイメージを持たれやすいスパナとレンチには微妙な違いがあります。
また、各々にもいくつかの種類が存在します。作業内容に適したものを選ぶと、作業自体の効率化などを図ることも可能なのです。 ここではスパナとレンチの違いだけでなく、その種類や選び方などについても解説していきたいと思います。
スパナ・レンチの定義とは?
スパナとは英語で「spanner」と表記します。ちなみに、この表記はイギリス英語とされています。通常、この「spanner」はナットやボルトなどの部品を回す工具の総称として使用されますが、日本語の「スパナ」は、両方の先端にナットやボルトを回すための嵌合部分がついた工具のことを指すのが一般的となっており、日本語と英語で意味が若干異なるということは大前提として覚えておく必要があります。
また、日本語の「スパナ」は、それが意味するものが「spanner」に比べて限定的であることから、「スパナ」という言葉自体が英語圏における「spanner」ほど一般的ではないという特徴もあります。この点に関しては、アメリカ英語である「wrench(レンチ)」という名称のほうが日本においてナットやボルトを回す工具の名称として広く使用されているということが大きく関係していますが、この点に関しては後述します。
以上のことから、「スパナ」とは、両端にナットやボルトを回すための嵌合部分がついた工具の一部を意味すると認識するのがよいでしょう。
スパナとレンチの違い
上述のとおり、レンチは英語で「wrench」と表記し、こちらはアメリカ英語です。しかし、その根本的な意味はイギリス英語の「spanner」と同じ。そのため、「wrench」と「spanner」の違いはそれがイギリス英語かアメリカ英語かだけと考えるのが一般的です。
その一方、日本においてイギリス英語に由来する「スパナ」とアメリカ英語に由来する「レンチ」という2つの名称が併用されていることから、しばしば混乱が生まれます。特に日本ではナットやボトルを回すために使用する工具に、「メガネレンチ」、「モンキーレンチ」、「両口スパナ」などの名称をつけているため、さらなる混乱を生んでいます。
しかし、日本語の「スパナ」と「レンチ」の間には明確な違いが定義されていることはありません。敢えて違いを挙げるとすれば、その語源がイギリス英語であるか、アメリカ英語であるかという点くらいとなります。その一方で商品の名称として利用されることが多いのは「レンチ」のほうであり、日本におけるナットやボトルを回すために使用する工具の名称としては、「レンチ」のほうが一般的といえます。
六角レンチと六角棒スパナの違いは?どちらが正しい?
六角レンチというのは、六角形の穴があいたボルトやネジを回す工具です。「スパナ・レンチの種類とそれぞれの違い」でも改めて触れますが、六角形の断面をした棒状のレンチになっており、ボルトの穴に差し込んで使います。
六角レンチと似ている名称で、「六角棒スパナ」と呼ばれる工具が存在しますが、2つは同じものを指します。一般的には、六角レンチの方が日常生活の中でよく耳にすることが多いかもしれません。
六角形の穴があいたボルトは、様々な穴のサイズが流通されていますが、ピッタリと合う大きさの六角レンチでなければ回せないしくみになっています。正確なサイズが必要な六角レンチは、互換性を保つことなどを目的としたJIS(日本工業規格)で細かくサイズが決められており、その規格化の名称として六角棒スパナという名前がつけられているのです。
そうした理由で、もともと広く使われていた六角レンチと、JIS規格で定められた六角棒スパナという2つの名称がうまれましたが、どちらを使っても間違いではありません。
スパナ・レンチの種類とそれぞれの違い
スパナ・レンチにはさまざまな種類があり、各々で特徴も異なります。続いてはスパナとレンチの中でも代表的なものをいくつか挙げ、その詳細について解説します。
モンキレンチ(アジャスタブルレンチ)
モンキレンチは、ボルトの大きさに合わせて、開口部の広さを調整できるようになっています。
他種との違いは、大きさが一致する1種類のボルトにしか使えないレンチが大半の中、モンキレンチには複数サイズのボルトに対応できる利点があります。
逆に、しっかり幅を合わせて固定した状態で使用しなければ、ボルトを傷つけて回せなくなってしまうデメリットにもなりえるので、注意して使用しましょう。
ちなみに、モンキレンチにはアジャスタブルレンチという別名もあり、モンキレンチが通称、アジャスタブルレンチが正式な名称という違いがあります。
メガネレンチ
先端がメガネのような輪の形をしたレンチを「メガネレンチ」と呼びます。メガネレンチには両端が輪の形をしているものと、片方の端だけが輪の形をしているものがあり、輪の形に合ったボルトしか回すことができないため、さまざまなサイズのものが販売されているという特徴もあります。
ラチェットレンチ
レンチをボルトにはめて回す際には、一定の角度まで回すごとに、一度レンチを外し、角度を変えて再びはめなおすという動作を繰り返さなければなりません。しかしながら、ラチェットレンチは、内蔵されたラチェット機構の働きにより、何度もレンチをナットから外す必要がなくなるため、効率的に作業を進めることが可能です。
トルクレンチ
ナットの中には、レンチによって締め付ける力が強すぎると傷がついてしまうものもあります。トルクレンチは、ナットを締め付ける力を調整しながら回すのに適しています。そのため、傷がつくことはありません。トルクレンチは締め付ける力を表す目盛りがついており、一目でその力の強さが分かるため、自動車整備などで頻繁に使用されます。
ソケットレンチ
ソケットレンチは取っ手の部分とナットにはめるソケット部分が別々になっています。ナットのサイズに合わせてソケットを交換することができるという特徴があります。ソケットレンチは複数のソケットとセットになって販売されていることがほとんどであることから、高額になりがちであるというデメリットもあります。
六角レンチ
頭頂部に六角形の穴が開いたねじを回す際に使用するのが六角レンチです。このようなタイプのねじは自転車や家具などに使用されていることが多く、六角レンチはそれらの修理にも適しています。
また、六角レンチはJIS(日本工業規格)で「六角棒スパナ」という名称で規格化されており、使用頻度は決して多くないのですが、ホームセンターなどで簡単に手に入るという特徴もあります。
コンビネーションレンチ
コンビネーションレンチは、開口している一般的なスパナとメガネレンチが片方ずつについた工具です。
両端のサイズに違いはないので、1種類のボルトに対して、使いやすい形状を選んで使用します。上から被せてはめることが難しい時は開口部のあるスパナ、ある程度しっかり力を入れて回す時はメガネレンチなど、使用状況に合わせて選べるメリットを持っています。
複数の工具を持っていくことが大変な高所の作業などで、重宝されるツールとなっています。
パイプレンチ
主に、水道管やガス管といった、配管工事に使う工具で、一般的なボルトを回すレンチとは形状や使い方に違いがあります。
角がないパイプの付け外しに使うレンチなので、歯がついた2枚のプレートでしっかりパイプを掴むような構造になっているのがパイプレンチの特徴です。
ボルトを回すレンチと比べると限定的な用途となるので、多くの人はパイプレンチを目にする機会が少ないかもしれませんが、配管工事などでパイプを扱う時には欠かせないツールのひとつです。
モーターレンチ
こちらもパイプレンチ同様、配管工事で使用するレンチです。主に、水道の配管の継手(つぎて)や大きなナットを回す時に使います。
はじめに紹介したモンキレンチと同じ構造で、開口部のサイズ幅を調節できるようになっており、複数のサイズに対応可能です。
使用用途が似ているモーターレンチとパイプレンチですが、2つの違いはどんな材質に向いているかという点です。しっかりパイプを掴むためのギザギザ歯がついたパイプレンチに対し、アルミや樹脂などの素材で作られているモーターレンチは、真鍮(しんちゅう)などの柔らかな材質でできている水道の配管に適しています。
スパナ・レンチの選び方
スパナを選ぶ際に気をつけなければならないのが、ナットやボルトのサイズです。特にサイズが調整できないスパナを使用する際には、双方のサイズが合っていなければ当然ナットやボルトを回すことはできないため、あらかじめナットやボルトのサイズを確認しておく必要があります。
また、ナットやボルトは角がつぶれてしまうと回すことができなくなってしまうため、スパナを使用して回す際には傷がつかないようにしなければなりません。そのため、スパナを選ぶ際にはサイズや締めつける力を微調整できることも重視する必要があります。
適切なサイズのスパナ・レンチを選択
ここではスパナとレンチの違いや種類、選び方などについて解説しました。スパナとレンチには、その語源において明確な違いがあるものの、双方が意味するもの自体は同様にナットやボルトを回す工具のことであるため、同じものと考えて問題はありません。
また、スパナ・レンチを使用して作業を効率的に進めるためには、ナットやボルトを傷つけないようにすることにも気をつけなければならないため、スパナ・レンチを選ぶ際には、ナットやボルトに合った適切なサイズであることを重視するようにしましょう。
制作:工場タイムズ編集部