学校の技術の授業で「はんだごて」を使ったことがある、という方は多いでしょう。一方で溶接は、はんだごてと同じ原理が利用された加工技術のひとつで、金属をつなげ合わせる際に行われます。また溶接にはいくつかの種類があることから、種類ごとのメリットを知っておくと、作業の効率化や耐久性の強化ができるようになります。
今回は、そんな溶接技術の中から「半自動溶接」という方法について、その詳細やメリット、使われている機械の種類をご紹介します。
半自動溶接とは?
まずは半自動溶接という加工技術の詳細について見ていきましょう。
半自動溶接は、半自動溶接機を使って金属を手動で溶接すること
半自動溶接は、冒頭でもご紹介した「はんだごて」を使った加工方法と同じように、「トーチ」と呼ばれる加熱器具で溶融金属という金属を溶かし、二つの資材を接合します。この方法は溶接の基本的な技術を応用していますが、半自動溶接では「トーチで加熱して溶かすワイヤーが『自動で供給される』半自動溶接機を使う」という点で大きな特徴があります。
またこの加工方法が「半自動」と呼ばれるのは、ワイヤーの供給は自動で行われるものの、溶接作業自体は手動で行われるためであり、機械を使うからといって作業を行う人への負担が全くかからなくなるということではありません。
半自動溶接とアーク溶接の違いは?
結論からいうと、半自動溶接はアーク溶接の一種になります。アーク溶接とは、アーク放電を利用した溶接全般を指す言葉です。
アーク放電というのは、電極に電位差ができた時、電極間の本来は電気を通さない気体中で電流が流れる現象のことで、アーク放電が生じた際には、高温の熱と強い光が発生します。
放電時の熱の温度は1,000度以上、光は照明器具と並ぶ明るさを放つのが、アーク放電の特徴です。その高温の熱を使って、金属の溶接を行う方法をアーク溶接と呼びます。
例えば鉄でいうと、液体になり始める融点は約1,500度となっており、1,000〜数万度までに達するアーク放電の熱を使うことで、金属を溶かして接着することが可能になります。
アーク溶接は様々な種類がありますが、電極とする材質の熱による溶け具合で、大きく2つに分けることができます。電極に使われるワイヤーや溶接棒に、母材と同じような成分の溶けやすい材質を使用した溶接が消耗電極式アーク溶接、逆にタングステンなどの溶けにくい電極を使った溶接が非消耗電極式アーク溶接です。
非消耗電極式アーク溶接は、2つの資材をくっつけるために別の金属を溶かして接着しなければならないので、溶加材が必要になりますが、消耗電極式アーク溶接は電極そのものが溶けて、溶加材の役割を担います。消耗電極式アーク溶接は自動で溶加材となる金属を供給する、すなわち、半自動溶接は消耗電極式アーク溶接と同義になるのです。
使用するガスによって半自動溶接の名称が異なる
半自動溶接では、金属を加熱する際にガスを使うことになりますが、このガスの種類によって半自動溶接自体の名称も変化します。同じ半自動溶接でも、ガスの種類の違いによって用途別に適している金属や加工方法の詳細が細かく変化するため、半自動溶接を行う際は種類の違いと名称を同時に覚えておく必要があります。
半自動溶接の主な種類
半自動溶接の主な種類には以下のものがあります。
CO2溶接
炭酸ガスを使う半自動溶接を「CO2溶接」と呼びます。この加工方法は、主に鉄の溶接で利用されます。
MAG溶接(マグようせつ)
アルゴン80%と炭酸ガス20%の混合ガスを使う溶接方法を「MAG溶接」と呼び、主に鉄やステンレスの溶接で行われます。
MIG溶接(ミグようせつ)
アルゴンを使って行う溶接は「MIG溶接」と呼びます。アルミやステンレスの溶接に適している反面、見た目の仕上がりをきれいにするには相当な技術を必要とします。
半自動溶接の専門資格を紹介
半自動溶接を行っている職場への就職を希望する場合、半自動溶接に関する専門資格を取得していると有利です。
日本溶接協会の溶接技能者資格の中でも「半自動溶接技能者資格」は、半自動溶接に関する最も知名度の高い資格のひとつといえます。ただし、この資格取得試験を受けるためには一定期間以上の実務経験が必要となるため、既に仕事で半自動溶接を行ったことがある方向けの資格といえます。
また、この他に半自動溶接に関する資格試験は日本全国で行われていますが、そのほとんどはJIS(日本工業規格)やWES(日本溶接協会規格)の検定試験規格にもとづいて行われており、受験資格などの条件に大きな違いはありません。よって、半自動溶接関連の資格を取得する上では、自分が住む都道府県や市町村が行っている試験を受けるのが最も手っ取り早いでしょう。
半自動溶接機を使用するメリット
これまで説明してきましたが、半自動溶接を行う際には半自動溶接機を使うことになります。続いては、この機械を使うことによって得られるメリットを見ていきましょう。
比較的簡単に溶接ができる
一般的な溶接を行う際には、片方の手でトーチを握りながら、もう片方の手で加熱して溶かす金属(溶接棒)を持たなければならず、スムーズに作業を行うためにはある程度の経験と技術が必要となります。しかし、半自動溶接では半自動溶接機が加熱して溶かす溶接ワイヤーを自動的に供給してくれるため、基本さえ覚えてしまえば比較的簡単に作業ができます。
溶接速度が速い
こちらも上記で説明していますが、半自動溶接にはいくつか種類があり、それぞれ適している金属の種類が異なります。そのため、金属の種類と溶接方法の相性が悪いと作業に無駄な時間がかかってしまいますが、その条件や電流の設定が間違っていなければ非常に速く溶接を行えるというメリットがあります。このことから、半自動溶接は金属の溶接が必要な大量生産を行っている製品の加工において活用されています。
シールドガスを使わなくてもできる
通常の半自動溶接では「シールドガス」と呼ばれる、溶融金属と酸素が結びつかないようにするためのガスを必要としますが、このようなガスは風による影響を受けやすく、屋外での作業には適さないといったデメリットがあります。
しかし、半自動溶接の中には「ノンガスワイヤー」と呼ばれる、シールドガスがなくても溶接が行える溶融金属を使う方法があり、この方法では風による影響を受けず、屋外での作業も行えるというメリットがあります。またこの方法ではガスそのものにかかる費用を削減できるという点も大きなメリットといえるでしょう。
さまざまな分野で活用できる
さまざまな種類がある半自動溶接を全体的に見てみると、
・適応できる金属の種類が多い
・屋内・屋外を問わず作業ができるという特徴
があるため、多種多様な分野で活用できるというメリットがあるといえます。このことから半自動溶接は、工場での車の製造や建設現場といった幅広いシーンで行われています。
半自動溶接機の主な種類と選び方
半自動溶接を行う際に必要な半自動溶接機にはいくつか機械の種類があり、それぞれ対応する溶接方法が異なります。続いては、それら機械の主なものと選び方をご紹介します。
ガスシールドアーク溶接機
半自動溶接機の中でも特によく使われているものが「ガスシールドアーク溶接機」と呼ばれるタイプのものです。このタイプの溶接機は、トーチの先端部分から溶接ワイヤーが出てくるという典型的な構造をしており、CO2溶接、MAG溶接、MIG溶接の各溶接方法に対応できるようになっています。ただし、中にはこれら3種類の溶接方法のうちの一部にしか対応していないものがあるため、購入時には対応している溶接方法をしっかりと確認するようにしてください。
ノンガス溶接機
ガスを使って溶接を行うガスシールドアーク溶接機に対して、ガスを使わない溶接機を「ノンガス溶接機」と呼びます。このタイプの溶接機はノンガスワイヤー(シールドガスがなくても溶接可能な溶融金属)を使えるようになっていることから、溶接機とは別にガスを用意する必要がないというメリットがあります。
ただし、このタイプの溶接機では「ヒューム」と呼ばれる溶接時に発生する煙のようなものや、「スパッタ」という溶接箇所に残る金属粒が多く出る、というデメリットもあります。
選び方と注意点
半自動溶接機を選ぶ際には、まず「ガスシールドアーク溶接機」と「ノンガス溶接機」のどちらなのかを確認するようにしましょう。ただし、最近ではどちらの機能も兼ね備えたものも多いため、予算に余裕があればそのようなハイブリッドタイプのものを購入するのがおすすめです。
また半自動溶接機の性能は入力電圧の数値によっても異なります。この数値は100Vのものと200Vのものが多く、よりきれいな見た目に仕上げたいのであれば、高出力の200Vのものを購入するのをおすすめします。
一方、ノンガス溶接機はガスを必要としないことから、予算が限られている人ならこちらのタイプを選んでしまうかもしれません。しかし、このタイプで使うノンガスワイヤーは若干割高であるため、トータルでのランニングコストはかえって高くなることがある、ということも覚えておいたほうがよいでしょう。
種類ごとの特徴を理解し、さまざまな場面で活用してみよう!
半自動溶接は、職人の高度な技術が必要な溶接をより身近な加工方法にした画期的な溶接技術といえます。そのため、この加工方法は工場や建設現場だけでなく、初心者のDIYでも活用することができます。
一方、この加工方法を安全に行い、見た目もきれいに仕上げるためには、接合する金属の種類と加工方法との相性を覚えておく必要があります。よって、加工方法の種類ごとの特徴をよく理解することも、半自動溶接を行う上では必要だといえるでしょう。
制作:工場タイムズ編集部
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