「水中溶接」という仕事を求人情報などで見かけたことはないでしょうか。一般的に溶接というと、工場などでマスクをかぶって仕事をする「溶接工」のイメージが強いかもしれませんが、溶接を水中で行うことから求められる専門性や高い技術力が特徴です。ただし一般的な溶接に比べると危険性がとても高く経験が求められる反面、企業に必要な人材として重要視されることも多い傾向にあります。
今回はこの水中溶接にスポットを当てて、仕事内容などを紹介していきます。
水中溶接とは
「水中溶接」とはその名のとおり、海や河川をはじめとする水中で土木工事などの溶接作業を行うことを指しています。普段の日常生活ではなかなか見ることができない仕事のため、一見地味なイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、橋やプール、水族館や船など、身の回りの水に関係するものを対象にした多くの場所で水中溶接の技術が使われており、とても重要な仕事のひとつといえます。
水中溶接の仕事内容
水中溶接の仕事は溶接棒を使い、放電現象を利用して金属同士をつなぎ合わせる溶接方法である「アーク溶接」で行われています。ただ溶接作業を行う場所が水の中なので、溶接をした部分の温度が急激に下がってしまうということもあり、陸上での溶接作業に比べて溶接の強度が低くなってしまう傾向が強くなります。
なので陸上のような太い溶接は水中溶接では行われず、代わりに細い溶接を並べる形で行い、強度低下や強度不足を防ぐ方法が基本となっています。
水中溶接作業を行うには高い技術力や経験、判断力などが必要となります。そのため建設会社をはじめとして、海底ケーブルの設置や管理といったインフラを手掛ける会社などでも重宝され、転職の際にも求人に悩むことが少ないのが特徴です。
また通常の溶接工の年収が300~400万円といわれているのに対し、水中溶接では日当で3万円を超えるのが一般的であり、年収で1,000~1,500万円といわれているように、高い技術が収入に直結する仕事ともいえるでしょう。
水中溶接の仕事の危険性
技術は求められるものの、収入が高いというメリットがある水中溶接の仕事ですが、当然ながら水中で行う作業になるので陸上での溶接作業に比べ行動が制限されることが多いです。また「水が濁っている」などの要因で視界が狭くなることも多く、陸上では大きなミスにならないものが、スムーズに作業がしにくい水中溶接では命にかかわるような重大なミスになってしまうことも少なくありません。
また陸上と水中では気圧差があるので、作業を行う水深が深ければ深いほど「高気圧障害」になりやすいです。そのほかにも水中で作業をするために必要な空気を送る送気管が作業中に何らかの理由で破損して窒息状態になってしまったり、空気タンクの残量がなくなってしまうことで起きる事故や、水中での感電事故などのリスクもあります。
陸上での溶接作業に比べてリスクはとても高く、ボイラー溶接や高所溶接など危険性の高い溶接のひとつに入るのも水中溶接の特徴です。
その一方、作業場所が水中なので、陸上での溶接作業で問題になりがちな煙を吸い込んでしまうことがまずないとされ、「肺炎」や「溶接工肺」をはじめとする溶接工に多い病気を患ってしまうリスクは低くなります。またやけどの危険性も低くなるということも水中溶接ならではといえるでしょう。
水中溶接の主な工法
水中溶接を行う工法には主に大きく分けて「湿式」と「乾式」のふたつがあり、それぞれ工法や特徴が異なります。ここからはそれぞれの工法の特徴や、工法が採られる状況などをご紹介していきます。
湿式水中溶接
溶接をする部分が水中に露出している中で溶接作業を行うのが「湿式水中溶接」です。海やプール、河川の中といった水中で作業が行われることがほとんどで、劣化や破損のような緊急事態時に応急処置の意味合いで湿式水中溶接が用いられるケースが多いです。
作業に関してはもともと水が濁っていることが多い傾向にあるうえ、溶接作業中に汚泥物質が発生してしまうこともあり、視界がとても悪くなってしまいがちです。そのため、応急処置といいつつも作業効率は決して高くなく、湿式水中溶接を行う作業員には通常の溶接作業とは比べ物にならないほど高い技術や体力が求められる仕事です。
乾式水中溶接
溶接部が水中に露出している湿式に対し、乾式水中溶接はシールドで覆う水のカーテンなどを発生させ、溶接部に水が触れない状態にしてから溶接を行うことから「局所乾式水中溶接」とも呼ばれています。
湿式は応急処置的な意味合いで用いられることが多いので、陸上で再度溶接や品質検査などを行う必要性があり、二度手間になりやすいというデメリットがあります。
これに対して乾式では水に触れないことから強度の低下が抑えられることもあり、陸上での溶接と変わらない高いレベルでの品質や、作業時の視認性が高いといったメリットが多いです。
乾式は「ハイドロボックス方式」や「水カーテン方式」「ワイヤブラシ方式」など、状況に合わせてさまざまな方式が採られるのも特徴です。
水中溶接をするために必要な資格
水中溶接を仕事として行う場合、必要となる資格があります。この資格を持っていないと水中溶接の業務に就くことはできず、経験を積むこともできないので水中溶接に興味があるという溶接工の人は、次にご紹介する資格を取得しておきましょう。
潜水士
溶接なのに潜水士? と疑問に感じる人もいるかもしれませんが、水中溶接は酸素ボンベなど潜水用具を使用して作業を行わなければならないことも多い仕事です。このため、潜水用具を使用して作業をするということが認められた国家資格である潜水士の免許を取得していないと、水中溶接ができないことも多くなってしまいます。
潜水士の資格取得には実技試験がなく、筆記試験で合格すれば取得できるので、合格率は約80%と高いです。しかし資格があっても実際に潜水用具を使用して作業を行うトレーニングや経験を積まなければならないので、資格だけあればどうにかなるというものではありません。
また潜水士の資格は水中溶接以外にも船のサルベージや災害発生時にレスキュー作業を行う人なども取得が必要になるものなので、取得しておけば幅の広い分野で活躍できる資格だといえるでしょう。
アーク溶接作業者
ガス溶接やプラスチック溶接など、溶接の資格と一口にいってもさまざまな種類がありますが、水中溶接ではアーク溶接によって作業が行われるので、アーク溶接作業者と呼ばれる専門の特別教育を修了した人が取得する資格が必要になります。
この資格自体は11時間の学科と10時間の実技の講習を受ければ取得することができますが、当然この資格を取っただけでは経験が浅いので、あまり意味がありません。陸上でアーク溶接の経験をきちんと積み、技術を身に着けた上でその技術を証明してくれる「手溶接技能者」という資格の中でもランクの高い「専門級」を取得しておくのがおすすめです。
水中溶接は高い技術が求められる職人とも呼べる仕事
今回は日常生活の中で作業をしている現場を見ることは多くないものの、必要性が高い水中溶接についてご紹介しました。
陸上での溶接に比べて危険性が高く、センスや技術も求められる仕事ですが、それだけ求人も多く、きちんとした仕事ができる人であれば高給取りになることも少なくありません。溶接工をしている人は今回の記事を参考にして、高給取りである水中溶接工へのステップアップを考えてみてはいかがでしょうか。
制作:工場タイムズ編集部